小さな「つ」は使わない

新入社員の訓練では、学生時代の言葉から、社会人の言葉へと直していくのに、これを使っているという。そうすると、こういう言葉を使わなくなる。

「あっちから持ってまいります」
これが
「あちらからお持ちいたします」
に変わる。「あっち」「こっち」が「あちら」「こちら」に変えられる。

他にも「ウェブサイトをお客さま目線で見る」「ニーズの本質を捉える」「搭乗目的によって会話の雰囲気を変える」「感謝の言葉、肯定の言葉から入る」「情の位置で対応する」「日常での過ごし方が出る」など、興味深い原則がたくさんあった。

ただし、これらは、社内でマニュアル化されているわけではない。たくさんのグランドスタッフへの取材から、私がスキルに落とし込んだものだ。そして、スキルは今も進化し続けている。それはマニュアルがないからこそ、できることなのかもしれない。

世界中のスタッフが集まるサービスのコンテスト

こうしたグランドスタッフの「心づかい」あふれた接客サービスが、世界中から集まった約60人のグランドスタッフによって競われる場が、2012年から年1回、行われている。「空港サービスのプロフェッショナルコンテスト」だ。

上阪 徹『JALの心づかい』(河出書房新社)

グランドスタッフは世界で約5300人働いているが、コンテストに出場できるのは、地区や空港から選び抜かれた精鋭のみ。彼女ら彼らは、各空港で「特訓」を積んでくる。それだけに、コンテストは熱い。涙、涙の場面も数々。取材にはテレビや新聞、雑誌メディアなども集まり、ニュースや情報番組にも取り上げられるなど、社内のみならず、社外でも大きな話題になる。

第6回は2018年1月に開催されたが、大雪の影響で初日の予選のみが行われ、予選通過した12名の中から優勝者などが選ばれる本選が延期になった。接客やアナウンスなど、まさにハイレベルの争い。書籍では、2016年、2015年のコンテスト優勝者にも取材し、声をご紹介しているが、地元のテレビ局や専門誌からの取材も数多く受けたという。

一度、本選に出場すれば、サービスアドバイザーの肩書きがつく。各空港でサービスや品質を向上させる役割だ。そしてアルメリアの花を模した形のバッジを着けることができるようになる。アルメリアの花言葉は、「おもてなし」である。

JALには世界で約100名、このアルメリアのバッジをつけたグランドスタッフがいる。

上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター。1966年兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに雑誌や書籍、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人超。著書に『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)他多数。
(写真=iStock.com)
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