コーチのマルコート氏は、ニューヨーク・タイムズの記事内で「二人の実力にはのびしろがある」と証言している。「やる気があり、ポジティブで、技術についてもスポンジのように吸収している」という。1月末の四大陸選手権で自身の最高得点を更新したのは、その証明なのかもしれない。リョム・デオク選手は、ネーベルホルン杯後のメディア取材でこう答えている。
「世界チャンピオンになるまで成長を続けたい」
北朝鮮のスポーツの歴史を顧みると、さまざまな国際舞台で数多くの“大番狂わせ”を演じてきた。サッカー、柔道、マラソン、重量挙げなど、その実例は枚挙にいとまがない。
北朝鮮では才能ある人材がひそかに優良なトレーニングを積んでいるというケースが少なくない。だが、五輪などの限られた大舞台にしか出場しないため、メディアも事前に実力を計れない。このため、結果を出せば自動的に“大番狂わせ”となる。
「祖国のために」でやる気は段違い
また「祖国のために」というメンタルも、結果に影響しているだろう。北朝鮮では「先軍政治」などの言葉に標榜される通り、軍事を国の最重要課題としており、女性が軍隊に行くことも珍しくない。常に生活の中に生きるか死ぬかという状況が横たわっており、かつ“スポーツ英雄”になれば多大なインセンティブもついてくるとなれば、やる気の度合いは段違いになる。実際、メディアからはノーマークだった北朝鮮の女性アスリートが、世界的な大舞台で好成績を収めることは多々ある。彼女らが口々に言うのは「祖国のために、首領様のために」だ。
しかも、朝鮮半島の人々はもともと大の“負けず嫌い”である。冷戦期には、そうした愛国心や精神性に、東ヨーロッパなど共産圏のスポーツ先進国との人材交流が活発化したことにより、アジアのスポーツ大国として名をはせてきたという“伝統”もある。