危機管理に求められる4つのステージ

危機管理では加被害混合案件や時代の変化、悪意のなさによって生じる「見えにくい罪」の存在に注意を払わねばならない。

不祥事を起こしたとき、必ず企業が行わなければならないのはそれがどういう案件でどう向き合うべきかというポリシーを策定し、社内で共有するための「認識共有シート」を作ることである。社員によって問題に対する理解にバラつきがあると、被害者や顧客の側から見ると対応がバラバラに映るからである。

これは経営者やその周辺の人間、つまり参謀役やスタッフが24時間以内に作成しなければならない。そのときに気をつけるべきは、まず事実をきちんと調べたうえで、自分たちの立ち位置を確認することである。

立ち位置の確認には「岸」という発想をするとよい。加害者の岸、被害者の岸という考え方をして、自分たちがその間のどこに位置するのかを把握するのである。こうすれば加被害混合案件でも立ち位置を間違えずに済む。

混乱の続く原発問題を例にとって図式化したものが図である。

民主党政権の原発対策の動きは非常に悪い。それは心のどこかに「原発の推進は自民党がやったことじゃないか」という気持ちが引っかかっているからである。しかしこのように「岸」の構図を把握すれば、現政権が責任逃れを言える立場でないことは明らかである。

このように立ち位置を確認して、ポリシーを策定すれば、何を聞かれても適切な対応ができるだろう。さらに、記者会見などの機会は自分たちのメッセージを無料で伝えてもらう千載一遇のチャンスと思えるようになるだろう。

報道によれば、ソニーは当初、米下院の公聴会への出席を求められたものの、調査中を理由に出席を拒否したと報じられている。本来、公聴会への出席はアメリカのユーザーに向けてメッセージを発するまたとないチャンスである。ポリシーを策定したうえで何を言えばユーザーの溜飲が下がるかを考え、たとえば「チーフプライバシーオフィサーを設置し米国で執務させる」といったコメントを出せば被害者の心理も変わったはずである。

公聴会への出席を拒否したことで早期にメッセージを発するチャンスを失ったどころか、議会や世論の反発を招いてしまい、集団訴訟を招き入れることにもつながった。反発している人が多いほど集団訴訟に加わるユーザーも増えるのだ。

危機管理には「感知・解析・解毒・再生」という4つのステージがある。感知とは、危機を感じ取り事実を掌握すること。解析とは、罪の重さの認識と展開の予測をして整えるべき対策や施策を洗い出すこと。解毒とは、自ら発生させた毒を消し去ること。再生とは、出口戦略の準備と再発防止策を講じることである。

これら一連の危機管理ステージの、とりわけ「解毒」の場面において、人間や人間社会における洞察力が結果を大きく左右することを肝に銘じていただきたい。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=宮内 健)