しかし、そうした変化にもかかわらず、家事の担い手は依然として女性のままです。総務省「社会生活基本調査」によると、末子が小学生である夫と妻の家事行動時間を比較すると、妻の家事時間が圧倒的に多くなっています。しかも、こうした傾向は専業主婦家庭、共働き家庭いずれの場合も変わりません。共働き家庭においても妻は夫の約3倍の時間を家事にかけており、平日でも土日とほぼ同じだけの時間を費やしているのです。会社で働いた後、家でも働く母親の姿を常日頃から見ている子どもたちには、その存在は頼もしく見えていることでしょう。
父親に対する尊敬度も引き続き6割の水準をキープしているので、父親も一生懸命仕事をしているのだということは子どもたちもわかっているはずです。しかし、これまでと変わらぬ役割を担っている父親に対し、家のことも社会のこともわかるようになった母親の存在感は相対的に高まっているようです。
より近づく母子の距離感
そうした背景のもと、子どもたちと親、特に母親との距離はとても近くなっています。
これは男女に共通する特徴ですが、特に男の子の“お母さんっ子化”は顕著です。「お母さんとよく買い物に行く」と回答した男の子は、07年に比べて20ポイント以上の増加となっているほか、「お母さんのような人と結婚したい」という男の子も6ポイント増加しています。
実際に私たちが家庭訪問調査に伺った小学4年生の男の子は、母親の誕生日には家族の写真や手書きのメッセージを切り貼りしたメッセージボードをお姉さんといっしょに作り、プレゼントしたそうです。調査の日はちょうど母の日だったのですが、その子はメッセージ付きの母の日のプレゼントを私たちの目の前で母親に手渡しており、そうした密なコミュニケーションが日頃から行われているようです。
また、子どもの意識変化分析にご協力いただいた中学校の先生も、「10年くらい前の中学生男子は、3者面談に来ても一言も母親と口を利きませんでした。でも今は、仲良く会話する子がほとんどです」と驚きを隠しません。
こうした“お母さんっ子化”は、母親の存在感の高まりだけではなく、東日本大震災が一因となり母親側の子どもに対するケアが手厚くなったことも影響しているようです。家庭訪問調査などを通し「震災以降、より子どもの心配をするようになった」という声が多くの母親から聞かれました。
ある中学1年生の男の子の母親は、自分の周囲ではどの家庭でも何かあった時にはすぐに連絡できるよう行き先は必ず把握した上、携帯電話を持たせているといいます。中学生ともなれば一人で出かける機会も増え、いつでも親の目が届く場所にいるとは限らないだけに、日頃から子どもにより注意を向けるようになっているのです。
また、母親のケアはオンライン上にも広がっています。ある中学2年生の女の子の母親は、自分の子がスマートフォンでどんなアプリをどれだけ使っているか確認できるアプリを導入しています。他にも、友達とのLINEのやりとりの内容を母親が確認していて、かつそのことを友達に伝えたうえで使うよう約束している家庭もありました。そうなると、さすがに子どもたちの側にも「もう少し自由にさせてくれてもいいのにな」という思いがあるようですが、ある小学4年生の女の子は「お母さんが自分のことを思って言ってくれてるのはわかる」と譲歩の姿勢。自分の気持ちと親の気持ちとのバランスを、うまく測りながら暮らしているようです。