【藤本】1個1円以下の部品ですが、同社は年間1兆個以上を生産し、品質を作り込み、全数検査し、アップルなどスマホの盟主企業などに販売し、この事業で約20%の高収益をあげていると言われます。自社製のスマホのコンデンサーを内製したい韓国のサムスン電子は、大量の人材引き抜きで村田製作所の牙城を崩そうとしましたが、結局うまくいきませんでした。

このように、全体のプラットフォーム戦略は「上空」の米国盟主企業が主導しているとしても、その枠組みと整合的な「強い補完財」「強い端末」「強い部品」といったアーキテクチャ戦略を本社主導でしっかりとれれば、高収益が達成できるという証左です。むろんそのためには、現場においては、他者がまねできないクローズドな生産技術、ノウハウが必要です。このような「能力構築を続ける強い現場」と「アーキテクチャ戦略を間違えない強い本社」が両輪で回れば、プラットフォーム盟主企業が君臨するデジタル産業でも、日本の企業や現場が活躍するチャンスはまだまだあります。

ソニーの稼ぎ頭は「CMOSセンサー」

【安井】他にも同じような例はありますか?

東京大学大学院の藤本隆宏教授

【藤本】最近、突然、史上最高益を計上し、復調してきたソニーの稼ぎ頭である「CMOSセンサー」(画像処理をつかさどる半導体)も同様の好例でしょう。最近私が会った米国人らがスマホやデジタルカメラを買うときに、良い写真を撮りたいということで気にしているのが「CMOSはソニー製か?」という点でした。スマホというオープンな製品群ですが、その中の部品の内部はとてもクローズドでインテグラルな「強い補完財」です。

他にもこうした戦略で戦う優良な中小・中堅製造業が数多く存在しています。実際、優良な国内現場を抱える企業は、中小企業でも中堅企業でも大企業でも、「仕事が来すぎて間に合わない」という悩みを抱えているところが多いことに驚かされます。現場は付加価値の流れる場所であり、よって、潮目の変化は、たとえば東京で新聞を読んでいる本社の人間よりもはるかに早くに察知されているのかもしれないのです。

【安井】このシリーズの4回目で詳しくうかがいましたが、ICT盟主企業が「上空」の制空権を持つのは仕方ないとしても、「低空」でそれなりに存在感を持つには「強い補完財」企業として生き残るということだと思います。だとすれば日本の製造業が今後、どのような分野にどのような戦いを挑むかという戦略づくりを間違えてはいけないですね。

【藤本】私は、製品がクローズドであっても、プラットフォームがオープンであっても、それに関わるものづくり現場は、地道な能力構築で勝機をつかむしかないと考えています。でもこれは企業が成功し、現場が浮かばれるための「必要条件」にすぎません。「必要十分条件」になるには本社の的確な戦略遂行、とくに正しい「アーキテクチャ戦略」の選択がなくてはなりません。