なぜ私たちはついスマホをいじってしまうのか
『習慣の力〔新版〕』〔渡会圭子訳、早川書房、2019年〕という良書で、ジャーナリストの著者チャールズ・デュヒッグは習慣を次のように定義している。「ある時点までは自分で選んでいるが、しだいに考えなくても毎日のように実行することになる行動」。デュヒッグいわく、あらゆる習慣は三段階のループ構造になっている。
1.きっかけ(引き金とも呼ばれる) 脳を自動操縦モードに切り替えて、特定の行動を実行するよう促す状況や感情
2.反応 反射的に起きるふるまい(習慣的行動)
3.報酬 脳が欲するもの、また、その“習慣のループ”を記憶に残すのを助けるもの
つまり、こういうことだ。ある日、あなたは退屈だと感じ、テーブルに置いたスマホに目を向け(感情と身体による引き金)、そのままスマホを手に取った(反応)。すると、気がまぎれて楽しく過ごせた(報酬)。脳のなかでスマホと退屈さの解消が結びつけられ、やがて少しでも時間ができれば、スマホに手を伸ばすようになる。
習慣はときに有用だ。反射的に作業や決断をおこなえるからこそ、脳は他のことに力を割く余裕ができる。一歩ごとに全神経を集中する必要があったなら、家まで歩いて帰るのがどれほど大変かを想像してほしい。一方で習慣が害をもたらし、依存症にまで発展することもある──たとえば、食事の終わりと煙草とが脳内で結びつけられたとしたら、どうだろう。
いちばんの方法は、習慣のきっかけを作らないこと
いい習慣でも悪い習慣でも、そのどちらでもなかったとしても、習慣を断ち切るのはきわめてむずかしい。しかも習慣がいったん依存症の域にまで達すると、認識できないほど些細なことでもきっかけになりうる。
2008年に学術誌『PLOS ONE』に発表された研究では、ペンシルベニア大学の依存症研究センターの研究者が、22人の治療中のコカイン依存症患者に対し、脳スキャナーに横たわった状態で、依存行動のきっかけになりうるものの画像(吸引パイプ、コカインの塊など)を見せた。
画像の表示時間は33ミリ秒(まばたきの約10分の1の時間)だったが、被験者の脳の報酬中枢は、薬物の使用器具を認識可能なほど長く目にしたときと同じ反応を示した。
嫌な情報だ。一方でいいニュースもある。習慣を完全に取り除くことはできないが、変えることはできる。もっとも簡単に始められるのは、習慣のきっかけに出会わないように生活や環境を整えることだ。そして、きっかけになるとわかっている状況に遭遇した場合に備えて、どう対処するかを事前に決めておくことだ。今週、私たちはそれに取り組んでいく。