スマホ依存の私たちはまさに「パブロフの犬」
ロシアの生理学者イワン・パブロフの、かの有名な実験を覚えているだろうか。ベルの音を耳にすると犬が唾液を出すようになったというものだ。餌をやるときにかならずベルを鳴らすようにしたところ、犬たちの頭のなかで(ドーパミンのはたらきにより)ベルの音と餌がもらえることが結びつけられた。最終的に犬たちは、ベルの音を耳にするだけで、期待感からよだれを垂らすよう条件づけられた。
プッシュ通知を許可すると、まさに同じことが私たちのなかでも起きる。プッシュ通知とはホーム画面やロック画面に一日に何度も現れる、あの通知のことだ。きっかけと報酬を結びつける脳本来の機能(それと、不確実性に対する不安)を利用し、スマホをチェックしたい衝動を引き起こす。
通知を見聞きするたびに、新しくて予測不可能な何かが、自分を待っていると知らされる──人が強く望むよう本能に刷りこまれているふたつの特性だ。
その結果、通知に抗うのはほぼ不可能になり、時間が経つにつれて“パブロフ反応”、つまり条件反射を起こすようになる。スマホが近くにあるだけで期待/不安を覚えるようになる(そして、注意散漫になる)のだ。
「プッシュ通知」こそが依存を加速させる元凶である
それどころか、テーブルに置いてあるだけでも、親密感や一体感、会話の質に悪影響を及ぼすことがわかっている──集中力を必要とする作業で効率が悪くなるのは当然だろう。
さらに、プッシュ通知は幻聴も起こす。ミシガン大学の2017年の研究によると、大学生の80%以上がスマホのバイブレーションや通知音の“幻”を体感したことがあった。
通知は注目を奪う手段としてもかなり優れている。マーケティング用の解析サービスを提供するロカリティクス社は、自社ブログの「プッシュ通知が増大した年」と題した記事で、次のような報告を記している。「2015年、プッシュ通知を許可したユーザーの一月あたりのアプリの起動回数は、平均14.7回だった。
一方で、通知を許可していないユーザーでは、その数は5.4回にとどまった。……すなわち、プッシュ通知を許可したユーザーは、不許可のユーザーと比べて平均して約三倍多くアプリを起動した」
以上のことをまとめると、通知音やバイブレーションは脳内で化学反応を引き起こし、私たちが実行中のこと(や、いっしょにいる人)に向けている注意を無理やりそらさせ、スマホを確認せずにはいられなくする。それも、たいていは他のだれかの利益のために。プッシュ通知でスマホはスロットマシーンになり、いま私たちが改めようとしている習慣のループそのものを強化する。悪の元凶であり、消してしまうにかぎる。