そしてこれが重要なのだが、憲法9条と併せて憲法76条の修正も必要となる。現行の憲法76条は特別法廷=軍事裁判所の設置を禁じているが、修正憲法9条において国軍の存在を認めるのなら、その法的な根拠と行動の制約の双方を担保するため、軍刑法の制定と、それに基づいて軍人を裁く軍事裁判所の設置が必須となるからだ。軍刑法とは軍人・軍属と捕虜の犯した軍事犯罪についての処罰を定めた法律のことで、軍法とも呼ばれる。

軍人を守るためにも、縛るためにも軍法が必要

例えば、自衛官が山陰地方の沿岸部をパトロールしていたところ、海中から某国の特殊部隊兵士と認識できる数人が出現したとしよう。ご丁寧にも、小脇にはサリンと書かれたボンベを抱え、目が合った瞬間に彼らはこちらへと銃を向ける……。世界基準で言えば、ここは撃たなければならないシーンである。

しかし、わが国の現行法制下においては、自衛官は警察官職務執行法を援用する形でしか対応できない。威嚇に続いては正当防衛射撃しか認められず、武器防護等の規定を用いたとしても先制射撃は難しい。

世界の実戦の場では、警告に続く先制射撃によって無力化し、安全を確保することがスタンダードな手法である。イラクやシリアでもそれが常識だ。例えば爆弾を満載した車両によるテロ攻撃は、自陣のはるか手前でショットダウンさせないと爆発に巻き込まれるため、常に先手を打った処置が必要となる。

ところがわが国では、自衛官がそれを実行した場合には刑事と民事の両方で訴追される可能性があり、イラク派遣の際にはイラクとの間で地位協定を結んだ。国内においては、軍としての活動を妨げないためにも、軍法という特別な法体系による軍人の保護が必要である。

一方で軍事裁判所には、軍法の定めによって軍人を厳しい管理下に置くという役割もあり、これは国家によって危害行為を許される軍人への戒めとして欠かせない。諸外国における軍法違反への処罰は厳しく、死刑制度のない国であっても軍法会議(軍事裁判)の裁決によって死刑に処せられることもある。米海兵隊では、事件を起こした兵士が軍法によって不名誉除隊となった場合、退役軍人としての地位は失われ、社会的落伍者の扱いを受けるという。