社会への責任について言及がほとんどない
一方、アマゾンはネットショップであるためこれまでは実店舗を持たず、一部の地域に最低限の倉庫を置くにとどまり、そのため地域社会にとって貴重な財源である固定資産税をほとんど払っていないという指摘もあります。2015年には、アマゾンに関連する米国全体の資産税収入の減少は5億2800万ドルに達したという試算も出されています。
もし本当に「アマゾンが成長するほどに、従業員の本来受け取るべき利益が減らされ、小売りのリアルショップは閉店し、地域社会は財政を悪化させている」のだとしたなら、その見返りとして顧客に優れたユーザー・エクスペリエンスを提供しているのだとしても、批判を受けるのはやむを得ないといえるでしょう。これらの批判が、先に述べたアマゾンのCSR面等での低評価につながっているのではないかと思われます。
近年、企業の社会的な責任が問われるようになってきました。「企業は社会の公器であるべき」だとするCSRの考え方に立つならば、真の顧客第一主義とは、狭義の顧客だけではなく、広く取引先や関連業界、社会全体のことまでを大切にする価値観ではないかと考えられます。あれだけ狭義の直接的な顧客への想いは毎年のアニュアルレポートのなかでも熱く語られているにもかかわらず、社会への責任についての言及がジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)からほとんどなされていないのは、本当に残念に思うのです。
宇宙事業を語るときは別人のよう
宇宙事業を語る際には「人類を宇宙に」との使命感を露わにするベゾスとはまったく別人のふるまいのようにすら感じられます。ここで2017年5月、米国インターネット協会の公開対談でベゾスが語った言葉を紹介させてください。対談の様子を動画でみて、私は宇宙事業を説明しているときのベゾスは、心からの使命感で熱く語っていると思いました。
「5歳の頃から宇宙に夢を抱いてきた」
「自分はアマゾンという大きな宝くじを当てた。その資金を宇宙事業につぎ込んでいる。そのためにアマゾンをやっていると言っていいくらいだ」
「宇宙事業のミッションは、多くの人達が宇宙に住めるようにすることだ」
「そのためには宇宙事業への参入を容易にする必要がある」
「自分がアマゾンを始めたときには、通信、交通、コンピュータなどのインフラは当たり前のようにあった。だからスタートアップでは自分たちの資金でアマゾンを始めることができた」
「宇宙事業は現在でも巨額の投資が必要だ。それを自分が宇宙事業のプラットフォームをつくっていくことで起業家も参加しやすくなり、宇宙に行くこと自体もより低コストで可能になるようにしたい」
「地球の将来を考えると人類の何割かは宇宙に住むことが必要になる時代が到来する。全世界の人口を抑えることは望ましいことではない。それよりも地球と宇宙に別れてそれぞれが望むところに住むほうがいい」
「今からずっと先のことかも知れないが、自分はこのようなことに貢献したいと思っている」
同じような社会全体、人類全体への使命感を、アマゾン本体の事業においても指し示してほしい――。これだけの影響力を持った以上、狭義の顧客第一主義ばかりでなく、社会の公器としての自覚や責任を、第6章で取り上げたジャック・マーのように、より顕在化させるべきではないでしょうか。アマゾン・ジャパンでは、「三方良し」を大切にする日本独特の文化やニーズを米国本社に理解してもらうことにも腐心しているようです。個人的にはベゾスを尊敬しているだけに、本当に強く期待したいところなのです。