実証実験当初より使用しているのはヌートノミー(nuTonomy)から提供を受けた自動運転車である。ヌートノミーは2013年、米マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンアウトする形で設立された。配車アプリを手がけるウーバーテクノロジーズや検索エンジン大手のグーグルなどと激しい競争を繰り広げながら、自動運転車向けのソフトウェアを手がけている。16年から、彼ら独自でシンガポールでの自動運転車の走行試験に乗り出しており、同地では招待客を乗せた「ロボタクシー」サービスも試験的に運用している。

17年6月からは、ヌートノミー同様、MITからスピンアウトする形で設立され、自動運転車のソフトウエア開発を手掛けるオプティマス・ライド(Optimus Ride)、自動車部品メーカー大手のデルファイ・オートモーティブ(Delphi Automotive)も実証実験に参加している。

ボストン市協力のもと、ヌートノミー等の車輌を使い、BCGとWEFが実施している実験の目的は二つある。一つは、ダウンタウンで自動運転車を走らせた場合の課題を洗い出すこと。もうひとつは自動運転車を含む新しいモビリティーサービスが登場した場合、市内の交通はどのように変化していくのか、をシミュレーションすることだ。これにより、新技術・サービスが都市に与えるインパクトを評価している。

(シミュレーション結果の動画はこちら→https://youtu.be/FcFsFDUwe4s

自動運転の肝・ソフトウエアの規模は旅客機上回る

限られた走行距離、しかも、限られたエリア内での走行であるにもかかわらず。ボストンでの実験では想定外の事態に多数直面し、完全自動運転化へ向けたいくつかの課題が浮き彫りになってきた。

たとえば自動運転車が伝統のある古い街並みのボストンを走った場合、当然、いろんな障害物が現れる。目の前をカモメが横切ることもあれば、子どもやお年寄りが急に横から飛び出してくることもある。そうかと思えば急に雪が降ってくるなど、突然の気候変化に遭遇する場合もある。

このような「想定外」の事態を、自動運転車はどうやって切り抜けるのか。大きなチャレンジは、この「判断」部分に存在する。

判断力の向上に必要なのはソフトウェアの進化だ。各種センサーから入ってくる情報を素早く処理し、それを正確に理解・分析し、多様な運転環境に対応しながら、人間に代わって自動車のブレーキ、アクセル、ステアリングを的確に動かす──。これを可能にするソフトウェアはどうしても複雑なものにならざるを得ない。

ソフトウェアに関してどれほどの進化が求められているのかを示す、わかりやすい例を挙げよう。たとえば、複数のADAS(先進運転支援システム)機能を持つ独ダイムラーの「メルセデス・ベンツSクラス」のソースコードの行数は、「ボーイング787」の約15倍だ。行数はすなわちソフトウェアの規模を表す。ADASから部分自動運転、さらには完全自動運転へと移行するにつれ、必要となるコードの行数はこの何倍にもなっていくだろう。判断の精度を上げるには、さらなる実証実験を繰り返し、できるだけ多くのデータを蓄積することに加え、的確な判断を行うアルゴリズムの構築が必要になる。