「1位」になると、好循環が生まれる

実は何年も前から、筆者が「出張時に泊まるホテル」を旅行サイトで探すと、リッチモンドホテルの紹介ページは、女性スタッフの笑顔とともに「顧客満足度1位」を掲げていた。最初の取材動機は、なぜこれだけ「1位」を訴求するのか、というものだった。

「日本一高い山は富士山と、誰もが答えられますが、日本で2番目に高い山を答えられる人は少ない。それと同じで、1位以外は注目度が落ちてしまいます。当ホテルが各種の調査で1位の評価をいただくと、従業員の意欲も高まりますし、宣伝効果も上がります。いまは宿泊客の6割がリピート客(常連客)で、非常に好循環になっています」

成田氏によれば、好循環の理由としては、「宿泊体験によるイメージアップ」(対外的効果)と「従業員のモチベーションアップ」(社内的効果)の2つがあるという。

「お客さまがリピート宿泊をされるのは、前回の滞在に一定の満足をいただいた結果ですから、ホテル側としてもうれしい。また、迎える従業員側は『リピーターのお客様をもっと満足させよう』とサービスに磨きがかかります。ご要望やご指摘のあった部分は改善しようと努力する。結果的に人材力向上につながるのです」(成田氏)

常連客が多いほど経営は安定し、新規顧客獲得のための販促費が抑えられる分、他の投資に回せる。同ホテルは会員組織である「リッチモンドクラブ」に優先予約枠を用意するなど、会員向けのサービスが手厚い。入会金や年会費は無料で、宿泊者でなくてもだれでも入会できる。こうした常連客の積み重ねは、危機の時に大きな効果を発揮する。2011年の東日本大震災では、競合が苦戦するなかで、同ホテルでは東北を中心に「会員がわざわざリッチモンドホテルに泊まる」という現象が起こり、経営は安泰だった。現在は11年に比べて100億円近くも売上高を伸ばし、経常利益率も倍増。会員数は2倍の約80万人となっている。