以上、選挙結果のシナリオ別に相場の反応を考えてきたが、どの政党が政権を握るにせよ、見極めるべき重要なポイントは、「政策内容」と「政局の安定性」である。今回のシナリオでは、野党優勢で株安・円高方向を想定したが、仮に野党が政権をとっても、その政策が成長重視など市場の期待が高まる内容の場合や、安定した政策運営を見通せる場合は、株安・円高の動きは一時的となる可能性がある。

なお、今回の選挙の争点となる消費増税には、やや注意が必要である。安倍首相は、増税による税収増分の一部を、教育無償化などに充てるとしている。消費増税に先行して、幼児教育・保育の無償化が実施された場合、子育て世帯の消費刺激効果が予想され、また、増税後も同世帯の実質可処分所得への悪影響は、ある程度緩和されると思われる。ただ、弊社では、幼児教育・保育の無償化により、1年間は消費者物価指数の伸びが、前年比で0.55%ポイント程度押し下げられるとみている。

また、消費増税で、国内全体の経済活動が停滞すれば、物価の低迷が長期化する恐れもあり、株価への影響は避けられない。そのため、2019年時点で、国内外の景気減速が顕著となっていれば、消費増税の再延期という選択も考えられる。いずれにせよ、これらはかなり先の話であるため、市場は消費増税という材料を織り込むにあたって、まずは追加情報を待つことになろう。

日経平均は年末に21500円に?

弊社は、調査対象の主要企業224社(金融を除く)について、2017年度の経常利益見通しを前年度比+15.1%としている。前提となる為替レートは1ドル=110円、1ユーロ=130円で、為替の実勢レートがこれらよりも円安水準であれば、見通しの上方修正要因となる。今回、衆議院選挙が終われば、日本企業の中間決算が本格化する。企業の利益見通しは好調で(図表4)、中間決算でもその傾向が確認されよう。選挙が波乱なく通過した後の株価の押し上げ要因として、中間決算にも注目したい。

なお、日経平均株価は足元で上昇ペースが加速しており、10月13日には2万1000円台を回復して取引を終えた。衆議院選挙での与党優勢の見方や、企業の好決算への期待が早々に織
り込まれたことによるものと思われる。弊社は、日経平均株価について、2017年12月末の
着地を2万1500円と予想しているが、12月末前に達成する公算が大きくなりつつある。ただ
、この水準を超えて、株価が一段高となるには、今後も世界的な景気回復と日本企業の業
績持ち直しが続くことを市場が確認する必要がある。それには今しばらく時間を要すると
思われ、日経平均株価が2万2000円に到達する時期は、来年になる可能性が高いとみている。

最後に北朝鮮を巡る情勢だが、(1)経済制裁の強化で核放棄を求める米国・日本・韓国、(2)自国の利益を鑑み、強い制裁には慎重な中国・ロシア、(3)そのすきを狙って核実験やミサイル発射実験を続ける北朝鮮、この構図はしばらく続く見通しである。ただ、6カ国とも、「朝鮮半島での軍事衝突は極力避けたい」という考えでは一致しているように思われる。引き続き、株式市場は北朝鮮関連ニュースに、売りで反応することが予想されるが、軍事行動に発展しない限り、リスク回避の動きは一時的なものにとどまると考える。

市川雅浩
三井住友アセットマネジメント シニアストラテジスト。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。著書に『為替相場の分析手法』(東洋経済新報社)など。CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。
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