29歳で精肉担当として、兵庫・加古川の関西2号店の開店に携わったときのことだ。同じすき焼き用でも関西では各種部位を合わせた手頃な価格帯が売れる。大阪出身の渡辺は地元ニーズをつかむと、パートの力を最大限に活かした。あえて他店経験者を募り、こう求めた。「必要なのはあなた方が培った力です。その力だけがほしい。他店のやり方は忘れてください」。精肉売り場は業界日本一の売り上げを記録。「関東商法は関西では通用しない」と公言していたダイエーの中内功社長(当時)が驚いて視察にやってきた。

その後も次々と挑戦を続けるなかで、渡辺は「利益を生み出す“車の四輪”」という独自の理論を編み出す。そして、ローコスト経営に徹するザ・プライスでは、この四輪を究極まで高回転させる必要があるとの結論に至る。本人が語る。

「1つは仕入れ改革です。既存ルートではなく、新規開拓する。実は開業時には新規はあまり間に合わず、これから進めることになった。その分残りの3つ、ロス削減、人時生産性(1人1時間あたりの利益)向上、坪効率アップでローコストを極めることになった。すべて現場のメンバーの働き方にかかったのです」

野菜売り場もダンボール箱をそのまま陳列に使用。うず高く積むことにより、顧客の衝動買いを誘発。このあたりはセブン―イレブンのノウハウが導入されている。

渡辺はまず、生鮮食品について廃棄や値下げによるロスを半減させる目標を立てた。当日仕入れ、当日売り切る。そのため、自ら身につけたノウハウを現場に投入した。典型が集約集中販売だ。精肉はピーク時には4段ケースに目一杯並べる。売れて量が減ったら下3段へ、同じ段なら右から左へと集約する。

この作業を徹底すると閉店1時間前には最下段に商品が集約する。その時間帯の顧客は急いで買い物をしようと目線が1カ所に集中する。心理を突く売り方だ。普通は最後に「50%引き」がよく行われるがその必要もなくなる。1部門で成果が出ると他部門も刺激され、ロス半減作戦はわずか三週間で軌道に乗った。

それは人時生産性にも好影響を及ぼした。精肉の夜間アルバイトが売り切りのノウハウを習得したことで、3人で行っていた仕事を1人でできるようになった。余った2人を加工食品や乳製品、豆腐などのデイリー食品の補充の応援に行かせる。翌朝、加工食品やデイリー食品担当のパートの女性たちが出勤すると、補充は大方終わっている。そこで今度は生鮮食品部門の補充の応援に行ってもらう。