実際、国内市場では「カジュアル路線」のニトリが急成長している。ニトリの直近の業績は売上高5130億円、純利益600億円で、純利益だけで大塚家具の売上高を上回っている。投資ファンドも「狙うべき市場はそこにある」と考えたのだろう。

久美子社長の戦略はすべて裏目に

しかし、久美子社長のもとで「カジュアル路線」に舵を切った大塚家具は、2期連続となる大幅な減収減益に落ち込んでいる。売り上げ減少の大半は「入りやすくなったはずの店舗」での結果だ。そして決算説明会での資料を見ると、久美子社長の戦略が結果的にすべて裏目に出ていることが開示情報で裏付けられている。

簡単に言えば、ニトリと競合する郊外大型店は来店件数が半分に落ちている。主力の商業立地路面店の来店件数は増えているのだが、経営陣によれば来店成約率が落ちているという。つまりニトリと競合する顧客セグメントやエリアでは勝てず、一方で主力店舗では来店客が増えたのだが、販売員によるクロージングが甘くなってしまい売り上げは逆に減っているわけだ。

要は「戦略仮説」が間違っていた

これは企業経営にはよくあることで、要は「戦略仮説」が間違っていたのだ。競合企業をニトリやイケアだと考え、「競争に負けているから成長できないのだ」という仮説をたてた。そして、より大きい市場を取り込もうと、接客スタイルや商品において「カジュアル化」を推し進めた。

しかし大塚家具の競争相手はニトリではなかったのだ。ニトリは大衆消費者の圧倒的な支持を得て成長したが、大塚家具の顧客層はそこではなかったというわけだ。

大塚家具の主力顧客は、私が知っている限りふたつある。ひとつが「新婚家庭の背伸び買い」。もうひとつが「富裕層の高級家具購入」。どちらもニトリとは直接競合するわけではない。

私は過去に大きな買い物という意味では2回、大塚家具を利用した経験がある。一度目は新婚のとき。出身地である名古屋の習慣に沿って、高額な婚礼家具を購入した際だ。ある水準を超える家具を一覧しながら探すには、大塚家具はとても便利な店だった。

購入した商品は、「熟練の職人が作った」という現代風の桐たんすだ。とても精巧につくられているため、引き出しを閉めると別の引き出しが空気で押されてひょいと開いてしまう。販売員から「ここがウリなんですよ」と説明されて、納得して買ったことをおぼえている。これは、おそらく人生最初の大きな買い物で、たぶん大塚家具のように、販売員から背中を押されなければ購入しなかっただろう。これはペルソナ(ターゲット顧客セグメントにおける典型的な顧客行動)としては、大塚家具の主力セグメント顧客の行動とかなり合致しているはずだ。

とにかく「いいもの」がそろっていた

もう一回は、久美子社長が経営戦略を変更して直後のことだった。当時、『戦略思考トレーニング』という著作がシリーズ累計20万部というヒットになり、まとまった印税が入った。そこで家具をひとつ買い替えようということになった。

数十万円の予算をたてて、銘木から作った一枚板ないしは二枚に開いた木目のテーブルを探した。お目当ては、ほかにはない「一点物」だった。

まず、東京・自由が丘の手作り家具の工房に出掛け、手持ちのテーブル素材を見せてもらい、次に新宿の輸入家具店でテーブルの在庫を見せてもらった。どちらの店でも販売員がバックヤードから「掘り出しもの」を取り出してきて、美しい天然木の木目の手触りをアピールしてくれた。

そして3件目に行ったのが新宿の大塚家具だった。受付では「店員をお付けしましょうか?」と聞かれ「いや、今日は下見なので自分で見ます」と答えたところ、天然木のテーブルのフロアを教えてもらい、自由に店内を見ることができた。

大塚家具の品ぞろえは最高だった。天然木のテーブルは、端が木の表面のままの形になっているものが多く、その自然の造形を楽しむものなのだが、テーブルの形や木目の模様など、とにかく「いいもの」がそろっていた。