ところが、結局、テーブルを買った店は、大塚家具を出て4件目に行った別の家具店だった。購入したのは、タモの天然木のテーブルだ。

富裕層の顧客は「わがまま」

いま振り返ってみると、私が大塚家具でテーブルを購入しなかったのは、大塚家具のボーンヘッド(野球用語の凡ミスのこと)だと思う。私は2店を下見して、いよいよ買う気満々だったのに、大塚家具は私を放置してしまった。その結果、お客を逃がしたことになる。

私は家内と一緒にふらりと店を訪ねたのだが、ほかの3店は販売員が積極的にそばにつき、詳しく商品を説明してくれた。私が高価な商品をいくつも比較して見ていることが明らかなのに、誰も声をかけてこなかったのは大塚家具だけである。

そしてこれは「富裕層の購買ニーズ」に全く合致していない。富裕層の顧客はわがままなのだ。

「自由に見たいので放っておいてくれ」と宣言していても、いろいろ見ていると「このテーブルの材質は何だろう?」と気になってくる。そうした雰囲気を察知して、スーッと客に近づいてきて、「これはトチです。この大きさのトチはなかなか手に入りません。貴重なテーブルです」と説明してほしいのだ。

来店数ではなく成約率に問題がある

細かいデータが開示されているわけではないので詳細はわからないが、大塚家具の店舗での売り上げ減少の理由の多くは来店数ではなく成約率に問題があるはずだ。富裕層にしても新婚層の背伸び買いにしても、マンツーマンでついている店員が背中を押してくれることによるアップセル(ちょっと予算よりも高いものを買って帰る)の効果が大きいはずだ。

ニトリは「カジュアル路線」を進めるために、徹底したコストダウンを図っている。同じ路線では、大塚家具は勝てないだろう。一方、路線変更で富裕層の顧客も取りこぼすようになっている。戦略仮説の誤りに気付いた時点で、プロの経営者ならば、過去の「お家騒動」などなかったかのように「しれっと」方針転換をして、勝久氏のやりかたのよいところを復活させるべきなのだろうと私は思う。

だが、会社説明資料を読むと、大塚家具の経営陣は逆を向いているようだ。ECサイトでの販売に力をいれ(本当にいい家具をECサイトで買う富裕層はいない)、店舗面積や人員を減らし固定費の適正化を進め(つまりコンシェルジュ的な店員はますます減り)、アウトレットのような新業態を積極開店している(安いのはうれしいが、富裕層が求めるのは「価格」より「ほしい家具かどうか」だ)。

大塚家具には、まだ富裕層を満足させるだけの豊かな品ぞろえがある。だからひとこと言っておきたい。「方針を変えるか、それか社長を替えたほうがいいですよ」と。

鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ。東京大学工学部卒業。ボストンコンサルティンググループなどを経て2003年に独立。過去20年にわたり大手人材企業のコンサルティングプロジェクトに従事。人工知能がもたらす「仕事消滅」の問題と関わるようになる。著書に『アマゾンのロングテールは、二度笑う』(講談社)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)などがある。
(写真=ロイター/アフロ)
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