ペルソナを作り上げ、「男をデザインする道具」と訴求

訴求をとがらせる上で、中心ターゲットとなる「ペルソナ」(マーケティングのイメージを明確にするために年齢や性別だけでなく趣味や嗜好など細かく設定した人物像)も作り上げた。

年齢は27歳で、埼玉県さいたま市在住。赤坂見附付近の企業に勤務し、年収は400万円以下。しかし両親と同居のため、収入のほとんどを自分のために使える。清潔でさわやかなルックスをしており、“一歩抜け出したい意識高い系”の性格。見られる意識が強く、毛深いことがコンプレックス……といった具合だ。

こういったペルソナがパナソニックの理容商品を使って何をするのか。

「『男をデザインする道具』であり、『アンダーヘアもファッションなんですよ』という表現をとがらせました」(陣内氏)

商品ポスターでは“細マッチョ”な男性モデルが上半身裸になっており、その前には整えられたアンダーヘアとおぼしき三角のフォルムが並ぶ。ハート形や稲妻形、ダイヤモンド形など、なかなか刺激的なデザインだ。

商品ポスター。三角で示されているのは、アンダーヘアをどんな形に整えるかというデザイン例。

「実際には女性用にはこういう形の『テンプレート』(アンダーヘアを整えるためのシート)が売られていたりしますので、何をするものかを伝えるためにあえてとがらせて入れました。あまりふざけた表現になると炎上するので、最初から最後まで真剣に伝えなければと思いながら詰めていきました」(陣内氏)

男性の美意識に訴求する商品ということもあって、2017年5月に開催されたLGBT向けのイベント「東京レインボープライド2017」にも出展した。「ゲイの方々は美意識が高くて体毛(ケア)にも詳しいので、(ウェブサイトなどを見て)『知っていました』と多くの人に来ていただきました」(陣内氏)

陣内氏によると、ゲイの人たちはインフルエンサー(他の消費者に影響を与える人)気質が強い人が多く、さまざまなSNSを使いクローズドなコミュニティー内で濃いコミュニケーションをしているという。「だから東京レインボープライドに出展したときも、多くの人からすでにボディトリマーを『知っている』と言われました」と陣内氏は語る。

「ですから、最初はインフルエンサー気質を持つゲイの方々に広めていただいて、若い人にはストレートに(商品の魅力を)届けるということができないかと考えました」(陣内氏)

流通向けの内覧会で大ヒットの予感

実際に販売を開始してみると、店頭の在庫が切れるほどの人気となった。

「シェーバーを販売する上で男性の美容意識を調査していますが、年々美容に対する意識が上がっていると感じています。体毛を整えることが恥ずかしいことではないと変わってきています。ボディトリマーが売れるかどうかは分かりませんでしたが、力を入れたら面白いことになるなと思いましたし、これをきっかけにメンズグルーミング商品が盛り上がればいいなということで発売しました」(陣内氏)

立て看板にもなった商品ポスター。当初外国人モデルだったが、ゲイの人の意見を聞いて日本人モデルに変更になった。

発表会や体験会での反応が良かったため、多くのメディアに取り上げられたが、営業やバイヤーからの反応は今ひとつだった。

「プロモーションの内容を事前に伝えても、営業はもちろんのこと、営業がバイヤーに伝えてもあまり響きませんでした。家電量販店は郊外型店舗が強く、そうした店舗は客層も高齢者が多いので、『うちの客層では……』という反応なのです。(ポスターと同じ、上半身裸の男性モデルが写っている)立て看板も作りましたが、全然発注がありませんでした。導入していただいた都内の大手家電量販店でも、すぐ撤去されてしまいました」(陣内氏)

しかし陣内氏は、発売前に行った流通向けの内覧会で「売れる」と感じたという。

「販売店の店員に来ていただいたのですが、20代から50代くらいの方まで多くの人が興味を持ってくださり、実際に試していただけました。小売店さんがそれだけ興味を持っていただいたので、これは売れるぞと感じました」

営業部門は3カ月で5000台程度の販売台数見込みだったとのことだが、実際には2万台を出荷し、2万台の追加注文を抱えるほどのヒットになったというのは冒頭に紹介した通りだ。もちろん、物珍しさというのもあったのかもしれない。しかしこれまでのバリカンスタイルではなく、VIOゾーンに特化しつつ体毛全体をケアできる使い勝手の良さに消費者の興味が集まったのも確かだろう。

今後の展開について陣内氏は次のように語る。「ヒゲも合わせて頭から足の先まで、整えていく方向だろうと思っています。世代ごとの好みによってつるつるにする人もいれば整えたい人もいるでしょう。いろいろな器具があるので、それぞれのニーズによって商品を選択してもらえれば。そうした潜在的なニーズを調査しつつ、ラインアップを増やしていきたいと考えています」。

■次のページでは、パナソニック「ボディトリマー ER-GK60」の企画書を掲載します。