以上がポナンザと黒魔術のお話でしたが、ここではっきりとお伝えしておきたいのは、私が黒魔術を嫌っていたり、ポナンザが黒魔術化することを恐れているわけではないということです。

なぜならポナンザは、私よりもはるかに強い将棋のプロ棋士たちを相手に戦うために設計されているからです。今の人工知能というものはプログラマの直感や予想された性能を逸脱することが求められています。だからポナンザは私の理解の及ばない範囲にいてくれなければならないのです。

ディープラーニングでAIは急速に発展する

いま人工知能ブームが到来しています。このブームの立役者は間違いなく機械学習です。それまでの「人が機械に教え込む」という作業では限界があったのを、機械学習によって、機械自身が知識を獲得するようになったことが大きな転換点でした。

皆さんが普通に使っているインターネットにおける検索も機械学習の結果です。写真を撮るときに顔を認識してくれる機能もやはり機械学習の力です。もはや機械学習は一部のIT企業、製造業において、なくてはならないものになっています。現代において、人工知能と機械学習はかなり近い意味を指すようにもなっているのです。

そして機械学習の分野では、ここ数年で大きなブレイクスルーが何度もありました。その中心にあったのが、「深層学習(ディープラーニング)」です。

グーグル傘下のディープマインド社が作った囲碁プログラム「アルファ碁」が世界トップクラスの囲碁棋士、イ・セドルを破ったことは、皆さんの記憶にも新しいところだと思います。アルファ碁は当時のほかのコンピュータ囲碁プログラムのレベルをはるかに超える力を持っていました。その力の源泉には、機械学習の一手法であるディープラーニングが大きく関係していたのです。

今や、世界のコンピュータ科学者たちがディープラーニングの研究に没頭しており、毎日のように新しい技術や手法が発表されています。正直なところ、私自身も今のディープラーニングの進化を全部フォローすることは、とてもじゃないけれどできない状態です。

おそらく人工知能ブームは、ディープラーニングの潜在能力の限界に到達するまで継続するでしょう。そして今のところ、その潜在能力がどれくらいあるかはよくわかっていないのです。

山本一成(やまもと・いっせい)
1985年生まれ。プロ棋士に初めて勝利した現在最強の将棋プログラム「ポナンザ」作者。主要なコンピュータ将棋大会を4連覇中。愛知学院大学特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、HEROZリードエンジニア。本書が初の著書となる。
関連記事
人工知能に棋士が負けても悲観しなくていい
宇宙ビジネスで「人工知能」が必要な理由
人工知能(AI)が人間を超える日は来るのか?
MIT発、AIでここまで読める「あなたの感情」
「ロボット再参入」ソニーのキーマンがすべてを語った