「手に職」には過大評価がある
専門学校卒業生の働き方を糸口に、日本社会における職業教育がどのような意味を持つのかを考えてきた。経済的・非経済的側面双方の分析からは、効果の範囲のようなものがみえてきたように思う。職業を意識した教育には、たしかにメリットもあるが、限界もある。そして限界という点でいえば、男子の【非資格職】に目立った効果が認められなかったという結果にスポットをあてておく必要があろう。多くの企業が評価しているのは、職業教育以外のところにあることを示唆する結果だからだ。
冒頭で述べたとおり、職業教育機関に期待を寄せる声は止むことなく、数年後には「専門職大学」「専門職短期大学」も誕生する。ただ、ここで本連載の目的である「エビデンスに基づいた学歴論」を展開すれば、私たちが「手に職」という言葉に吹き込む希望には過大評価の部分があるのではないだろうか。新たな教育機関も、同時にいまの労働市場の状況を変えるような策を講じなければ、存在感の薄いものになりかねない。
学歴がどのように機能するかは、何を教えるかという点のみならず、社会の側がどのような知識に価値を見出しているのかという点もかかわりながら定まっていく――職業教育の現状分析は、この点を改めて自覚させてくれるケースだといえる。
東京大学 高大接続研究開発センター 教授。1974年生まれ。2003年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。07年博士(教育学)取得。17年より現職。専攻は教育社会学。著書に『「超」進学校 開成・灘の卒業生』(ちくま新書)、『検証・学歴の効用』(勁草書房)などがある。