生徒どうしのつながりの強さを目指す部活動ほど、その束縛も強まる可能性がある。やめようとすると、学校生活において仲間を失ってしまうのではないか、さらには「いじめ」の被害に遭ってしまうのではないかと、さまざまな不安が生徒の脳裏をよぎる。活動の量も質も濃密な部活動は、それを重荷と感じた生徒を息苦しくさせたまま、そこにつなぎ止める。
退部は顧問への「反乱」?
部活動をやめさせない圧力は、生徒どうしの関係だけに生じるものではない。
顧問自身が、「やめたい」という生徒をなんとしてでも引き留めようとすることも、よく聞く話である。
とある中学校で、サッカー部の顧問が激怒した。以前から部活動中の態度にあまり真剣さが見られなかった生徒が、その日もしゃべりながらランニングをしていたのだ。顧問は生徒を呼び出し、皆の前で怒鳴って叱りつけた――「お前のことはもう知らん!」。
じつはその生徒は、以前から「もう部活をやめたい」と仲間の部員たちに相談していた。だから顧問が「もう知らん!」と言葉を投げつけたとき、生徒はその場で即座に自分の気持ちを顧問に伝えた――「だったら、もう部活やめます」。
これが顧問の感情を逆なでした。「いままで、みんなで一緒にやってきたのに、それを台無しにする」「それでは、世の中に出ても生きていけない」と厳しい言葉を次々と投げつけ、そして「頭冷やして、よく考えろ!」と激怒したまま、顧問は職員室に戻っていってしまった。
その生徒は、すぐには職員室に行かずに、一晩悩んだ。仲のよい部員たちにも、夜中に相談した。そして、その日のうちに退部を決断するに至った。
激怒の後に職員室に戻ってしまうというのは、教員文化においては定番の叱り方で、いずれ生徒が職員室に謝りにやって来ることが想定されている。そこで、顧問と生徒の人間関係がさらに深まるという、コテコテのドラマである。
だがその生徒は、謝りに来ることもなく退部を決意した。困ったのは、顧問である。激怒してその生徒を突き放したところ、もうその生徒は職員室にはやって来ないのだ。結局、翌日に職員室で待ちきることができず、みずからその生徒を説得すべく、怒りながら職員室を出て行ったという。