「越後屋政治」をやるのは簡単ではない。小池氏は政治家として目端がよく利く。相手をたたきのめす鋭い刃(やいば)をその懐に持っている。
小池氏の本心は初の女性首相にある
都議選後の最大の焦点は、小池氏が新党を結党し、首相就任を目指すかどうかになっている。小池氏の本心は、初の女性都知事が初の女性首相になるところにある。しかし、都議前後の新聞各紙の社説はそのことに触れていない。「このことは残念である」とこれまで「プレジデントオンライン」に沙鴎一歩は書いてきた。
あらためて都議選翌日となる3日付朝刊の社説の見出しを並べてみよう。
「都議選で自民が歴史的惨敗 おごり代償と自覚せよ」(毎日)
「『安倍1強』の慢心を反省せよ 小池氏支持勢力の責任は大きい」(読売)
「大敗の自民 『安倍政治』への怒りだ」「都民ファースト 風で終わらせぬよう」(東京)
「安倍自民は歴史的惨敗の意味を考えよ」(日経)
「小池勢力圧勝 都政改革の期待に応えよ」(産経)
こうした見出しを見ただけでも、社説の大半が、小池氏の本心には触れず、安倍政権に対し、「1強」の驕りや弛みの反省を強く求めるものにすぎないことがよく分かる。
「都ファ」代表辞任という離れ業
都議選後、小池氏は地域政党「都民ファーストの会」の代表を退いている。この突然の退任劇には、「初の女性首相」への意欲がにじんでいる。
小池氏は選挙前まで、地域政党「都民ファーストの会」の代表ではなかった。これは「知事が代表を務める政党が行政のチェックをできるのか」と二元代表制の観点から批判を受けてきた事情が影響している。二元代表制とは、首長と議会それぞれが有権者の直接選挙で選ばれる地方自治の原則を指す。首長の行政運営を議会が議案の議決でチェックすることで行政を健全に進める。
しかし小池氏は都議選前に「都民ファーストの会」の代表に就任した。小池氏と「都民ファーストの会」の人気に大きな差があり、この差を埋めることが代表就任の狙いだったとみられる。自民党からは「二元代表制を否定するもので、これでは都政のチェック機能が働かなくなる」と批判の声も上がった。小池氏は、選挙戦を通じ「一部の有力都議の意向が反映されてきた自民中心の都政こそ、チェック機能が働いてこなかった」と反論した。
そして、圧勝から一夜明けた7月3日午前、突然、「二元代表制への懸念があることを想定し、知事に専念する」と代表を退くことを表明した。
選挙期間中は代表で、選挙が終わってから辞める。かなりの離れ業でもある。そういう意味では選挙目当ての代表就任とみられても仕方がない。それを覚悟で小池氏はなぜ、突然、代表を辞任したのか。
都知事のほうが首相を狙いやすい
中立性が重視される知事の立場で政党の代表を続けるわけにはいかないからだ、というのが大方の見方のようだ。だが、沙鴎一歩はそうは思わない。
「都民ファーストの会」はあくまでも地域政党である。首相の座を狙うためには全国的な政党(たとえば「国民ファーストの会」)を立ち上げる必要がある。そのためには、いまの時点で地域政党の代表を辞任することがベストなのだ。都知事を務めながら、首相の座を狙うには、そのほうが動きやすい。
前述したように、小池氏は敵を必ず倒す底力を持つ。次の「越後屋」はだれになるのだろうか。