▼頭打ちになった営業CF

では、08年3月期におけるオリンパスの連結CF計算書を繙いていこう。「同社が先送りした損失を決済させるための支出(損失)が、投資活動に伴う投資CFに表れている」と前川氏は指摘する。

この会計年度には3043億300万円ものお金が投資活動で出ていて、細かく見ると「連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出」という項目の金額が2322億3400万円のマイナスで、全体の4分の3も占めていた。実はそのほとんどが、後から問題になった英国の医療機器メーカーを買収するために使った費用だと見られているのだ。

「これほど巨額の投資支出額は、過去のオリンパスのCF計算書を見る限り、異例中の異例といっていい」と前川氏はいう。それまで同社の投資規模は、せいぜい数百億円程度にすぎない。

一方、本業の営業活動に伴う営業CFは、890億600万円を計上。通常、真っ当な会社を買収すれば、そこのCFが買い手側に入るから営業CFは増加する。しかし、オリンパスは大規模投資をしたものの、営業CFはまったく増えていない。

むしろ、09年3月期は416億2800万円へ減っている。図のグラフを見てもわかるように、その後の営業CFは頭打ちの状態になった。「ここにオリンパスの決算書の歪みが一目瞭然になる」と前川氏。ついでに売上高の推移をチェックすると、08年3月期まで1兆円を超えていたものが、翌期以降やはり漸減傾向を示している。

「投資活動は、将来のお金を稼ぐための布石。それにもかかわらず、営業CFが伸びないどころか減少してしまった。このようにCF計算書の内容を時系列で見ていくと、『どこかおかしい』と瞬時にわかってくる」

こう前川氏が指摘するように、確かにオリンパスのCF計算書からは、まともな経営に取り組んでいた様子が感じられない。そして、このCF計算書の歪みは貸借対照表にまで及んでいるのだという。

「実態を伴わない英国の医療機器メーカーを買収したのなら、どこかで辻褄合わせが必要になる。そこで08年3月期に前期と比べて2210億8200万円も“のれん”を膨らませて、貸借対照表の純資産を水増しすることで決算書の見栄えを整えたのだろう」

ここでいう「のれん」とは、企業の買収によって新たに生じる資産のこと。通常、買収額は高額になることが多く、買収した会社の正味の資産額を超えた分の金額がのれんになる。オリンパスはこれを悪用し、09年3月期から11年3月期にかけて、純資産を約415億~474億円水増ししたと思われる。