一気通貫の強みと弱み
「極端に言うと普通の問屋は、いま一番売りやすいものを売ればいい。でも、うちは花王の商品しかない。ブランドを育てるのは研究もマーケティングも、販売も一緒なんです」(竹内氏)
そして、膨大な顧客のデータは本社に集約され、あらゆる商品開発やマーケティングに活用される。組織が自社で完結されているため、意思決定から実行までスピーディーに実現できる。
一方で一気通貫の組織だからこその危機感を竹内氏は抱いているという。「たとえば先ほどお話ししたアタック。粉洗剤が強かった分、液体洗剤への変化に遅れてしまったという反省があります。他社の人間と接しないのも問題です。うちのグループの人間としか接しないんですよ。同じ価値観の人同士で揃ったデータを見て仕事をしている。新しいアイデアが生まれ難いのではと思うんです」
取引先からは「花王は必ず80点を取る。しかし、予想を超えるもの、100点以上はない」と言われることもあるという。
最強の販社組織と、最強であるがゆえの「改革」への躊躇――。海外に目を転じても、国内では最大の武器である販社の体制がない新天地では、強みである人海戦術を取れない。
P&Gやユニリーバといった競合は、小売店1店舗ごとへの営業に注力はしていない。ウォルマートやアマゾンなどの本社本部に直接、商品開発の段階から相談をし、販売戦略に結び付ける。その際には、営業担当だけではなくマーケティング担当と共に提案をしているのだ。花王もその手法を取り入れようとしている。
デオドラントZの開発から販売までの過程には、花王の海外事業拡大に繋がる、新しい販売モデルが見えてくる。
(後編につづく)
1959年、兵庫県出身。同志社大学経済学部卒業後、81年花王石鹸(現・花王)に入社。花王販売(現・花王カスタマーマーケティング)九州支社長、経営企画部門統括などを経て、16年より現職。思い出深い商品はアタック。