しゃべらない側も実は苦しい。自供して早く楽になりたい、と多くの犯罪者が思っているという。「犯罪者には必ず泣きどころがあるので、そこを探し、それを基点に相手を理解してあげる。この人になら話しても大丈夫だ、これ以上黙っていても意味がない、と相手に自然に思わせることが重要です」。

その際、大きな武器になるのが、幼少期にタイムスリップさせること。「容疑者の故郷の自然や町並み、実家、墓、出身校などの写真を目の前で見せることもある。『子どもの頃は親思いで、ひとり親だった母の手伝いをよくしていたんだってな』と実の母から聞いてきたエピソードを示す場合もある。純朴でけがれていなかった当時を思い出し、『そうなんだよ、警部さん』、と話し出したらしめたもの。『じゃあ、なぜこんな事件を起こしたのか』、と問いかけると、『実は……』と真相を話し始めます」。

久保氏は容疑者が「落ちる頃合い」がわかる。そういうときは、わざと真正面ではなく、椅子をずらして隣に座る。「男が女を口説くとき、隣に座って話すでしょう。あれと同じです。そのうえで、ここで落ちる、ここで落とそう、と思う瞬間がやってきたら、立ち上がって、横から肩を触ることも。それだけで、何人もの容疑者が自供しました」。刑事ドラマのような世界は本当にあるのだ。

【交渉テク】
・親や故郷の話で、無垢な童心にかえす
・真正面ではなく、隣に座って落とす
(撮影=市来朋久)
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