真っ直ぐにこちらの目を見据え、前向きな話を、淀みなく、たたみかけてくる──。そんな都合のいい売り込みには要注意だ。ポイントは、メリットとリスクを「両面提示」しているか。社会心理学者に「騙し」のテクニックを聞いた。

歯ブラシのCMで「白衣」を着ている理由

人は誰でも簡単に騙されてしまいます。私は社会心理学者として様々な「騙し」の手口を研究してきましたが、そんな私も、ときには騙されます。重要なのは「騙されるかもしれない」というリスクを知ることです。

今回はビジネスの現場で行われるプレゼンテーションをテーマにしながら、「騙しの手口」について解説していきます。すべてのウソを見破れるとは限りませんが、騙されるリスクを減らすことにはなるはずです。

相手に何かを要請する人と人のやりとり、いわゆる説得的コミュニケーションについて、社会心理学では「SMCR」というモデルを使います(図1)。これは「送り手(Sender)」「内容(Message)」「手段(Channel)」「受け手(Receiver)」という4要素の頭文字です。

図1 便利なフレームワーク「SMCR」モデルとは

言い換えれば「どんな人が」「何を」「どうやって」「どんな人に」伝えるかによって、伝わり方が変わるということです。たとえば「身なりのいい営業マンが」「おいしい儲け話を」「別の商談の最後に」「金融知識のない人」へ伝えれば、簡単に相手を騙すことができます。