もしどうしても手を焼く部下がいれば、本人に聞いてみればいい。
「俺は一生懸命やっているつもりだが、なぜ信頼してくれないのか」
聞かれれば部下も悪い気はしないので、教えてくれるはずだ。
「部長はあのとき、私の話をろくに聞きもしないで一方的に責めたじゃないですか」
などと過去の遺恨が出てきたら、そのときは謝ればいい。部下に頭を下げるなど言語道断と思うだろうが、それで関係がよくなれば業績が上がる。そして成果というフルーツを得て、幸せになるのは自分である。つまり部下との信頼関係を築くことで得をするのは、ほかでもない自分自身なのだ。こう考えれば、いくらでもこちらから歩み寄れるはずだ。
これは自分の気持ちを偽って、部下にゴマをすれということではない。会社なんてところでは、演技をしたって始まらない。長い時間を一緒に過ごすのだからすぐにボロが出る。地のままでいくのが一番だ。いつも明るく前向きであらねばと演技をするから、ウツなどメンタル面での問題が出てくる。人間は常に感情をコントロールすることなど不可能。私だってときには爆発するし、部下を怒鳴りつけることもある。しかし根底に、「この人を育てるために」という気持ちがあるから、叱られた部下も納得してくれるのだ。
部下は家族のようなものだと言ったが、本物の家族に対しては、もっと感情をむき出しにするだろう。夫婦ゲンカもするし、子供を叱責したりもする。しかし、根底には深い愛情がある。部下に対しても、できる限り同じように接することだ。本物の信頼関係を築くには、それしか方法はないと私は思う。
1944年、秋田県生まれ。東京大学経済学部卒業後、東レ入社。プラスチック事業企画管理部長、繊維事業企画管理部長などを歴任後、2001年に同期トップで取締役就任。03年、東レ経営研究所社長就任。著書に『ビッグツリー』『こんなリーダーになりたい』など多数。