「辻褄合わせ」で社員すら欺く経営陣

この本決算を乗り切っても、東芝が抱える問題が無くなるわけではない。「時限爆弾」とも言えるのが、米国の液化天然ガス(LNG)を巡る長期契約だ。米国で「液化役務提供会社の天然ガスの液化能力及びパイプライン会社のパイプラインを、2019年から20年間にわたり一定規模利用する」契約を結んでいることが有価証券報告書に記されている。つまり、20年間にわたってLNGを引き取る契約になっているわけだ。どうやら米国でWHが4基の原発を受注する際の見返りとしてこの契約を結んだとみられている。

有価証券報告書の2021年度以降の偶発債務には9249億円という数字が書かれていて、「大部分の契約債務については見合いの販売契約を締結してまいります」とある(※2)。つまり、販売先は昨年段階でまだ決まっていないのだ。有価証券報告書の別の場所にも、「全量について、需要家との間で、主として長期の取引契約を締結する予定ですが、原油価格等の動向次第では(中略)損失が発生する可能性があります」となっている。電力会社やガス会社に損失が出ない価格で引き取ってもらえなければ、大損することになる。このリスクも何とか「遮断」しなければ、東芝再生の重い足かせになる。

1年前、東芝は期末ギリギリで、将来を担う「虎の子」だった医療機器事業をキヤノンに売却、債務超過を回避した。決算書の「辻褄合わせ」に成功したわけだ。ところが今度は、当時は不要だと言っていたはずの原子力事業の減損を迫られて巨額の損失を計上することになった。残る「虎の子」の半導体事業を売却することで、今回も決算書の「辻褄」は何とか合わせるのだろうか。

本当に1兆円の損で収まったとしても、目だった稼ぎ頭がなくなった「新生東芝」の前途は多難だ。何よりも、辻褄合わせの過程で欺き続けた投資家や社員の信頼を取り戻すのは容易ではないだろう。

注1:当社海外連結子会社ウェスチングハウス社等の再生手続の申立について(2017年3月29日)
http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20170329_1.pdf
注2:2015年度-第177期(2016年3月期)有価証券報告書
https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/library/sr/sr2015/tsr2015.pdf

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