知識と見識を深め情報を正しく読む
「私の場合、区切りとなるサイクルは、内閣府がGDPを公表する3カ月単位。レポートを作成するに当たっては、一番旬なテーマや切り口を調査本部のエコノミスト、研究員と一緒に徹底的に議論する。このプロセスは部下の指導も兼ねています。仕上げの直前は1日おきぐらいに集まって、数時間議論して詰めるのです」
新たなビジネスチャンスに巡り合ったとき、取捨選択と本人の対応次第によって結果が大きく異なってくる。特にそのなかから付加価値の高い仕事を選び、相手が納得する成果を挙げられれば、より一層、評価も高くなり、収入も増えていくと話す。
「仕事を軌道に乗せるポイントというものがあります。当社の仕事に当てはめれば、政策当局やマスコミ、顧客にはタイムリーな情報発信が不可欠です。その関係が良好になると、相手からの情報収集や意見交換ができるようになります。そこで得た情報を正しく読むことで、さらなるビジネスチャンスにつながるでしょう。このような好循環にすることが大切で、このサイクルは、うまく回り始めると習慣化します。とはいえ、それをつくり出すには、ビジネスマンとして相応の知識と見識を深める必要があります。さらに、人間の幅を広げることが大切でしょう」
熊谷氏は、それを“リベラルアーツ”の体得だという。自分の得意分野だけでは、もはやビジネスマンとして一流とはいえない。やはり、哲学、歴史、文化、宗教まで幅広いジャンルの教養は必要だ。
去年から熊谷氏が「不識塾」という勉強会で学んでいるのも、その一環にほかならない。この塾は、中谷巌一橋大学名誉教授が理事長を務める不識庵が主催するもので、各業界から1社、経営の中核を担うと期待される執行役員、部長クラスの30名が10カ月間研鑚する。目標とするところは、確固たる歴史観と大局観を養い、アイデンティティを確立するとともに、グローバルな場においても稼げる経営者の育成である。
「当然、得意な分野をブラッシュアップしていくことは大切です。しかし、それだけでは視野が狭くなり、アウトプットする切り口も限られてしまう。もともと私は、他人の講演会に参加するのも好きですから、この塾は自分自身の充電の場として楽しんでいます。講師陣も、政治学者のフランシス・フクヤマさんやiPS細胞の山中伸弥博士と多士済々で、多方面の話を聞き、視野を広げ、多面的な思考に役立つと同時に人脈の拡大にも資するわけです」
もちろん、情報収集のソースとして新聞、テレビニュースも欠かせない。購読紙は、日刊6紙に加え「フィナンシャル・タイムズ」に「ウォール・ストリート・ジャーナル」、駅売りの夕刊紙のほかに格闘技好きな熊谷氏は「東京スポーツ」なども愛読する(熊谷氏が目を通す資料は図の通り)。これらは、通勤や出張の移動時間を活用して目を通すが、数紙を読み比べることで、偏りのない情報を手に入れることにつながる。