DAZNのネット配信開始で、Jリーグはどうなる?
――日本のサッカーについて聞かせてください。クラブ・ワールドカップの複数回の開催、2002年の日韓ワールドカップの実施という実績はありますが、日本のホスト力についてどう見ていますか。
【テバス】サッカーのみならず、日本という国はスポーツ産業が盛んです。私自身が見た限りでは非常にうまくいっていると思います。今後はラグビーのワールドカップ、2020年のオリンピックとイベントが続きます。こうした組織だった部分は非常に上手いという印象です。
――イギリスのPerformグループが、10年2100億円という巨額を支払って、Jリーグの放映権を取得しました。これにより、ネット中継、テレビ放映などメディア側には、どのような変化があると思われますか?
【テバス】(ネットの)ストリーミング(配信)が中心という形ではあるかもしれませんが、それ以外のところの戦略を進めていくと思われます。PayTV(有料放送)を始め、恩恵はさまざまなメディアにおいて出てくるのでは。OTT※という形もあるでしょう。テレビやストリーミングだけでなく、全体的な形、あらゆる媒体で普及していくのではないかと思います。
※OTT……Over The Topの略。HuluやNetFlixのように、通信企業ではないが動画コンテンツをユーザーに提供する企業を指す。
――なるほど、放映スタイルが従来のテレビ放送に限らずいろんな形で広がっていくということですね。先程述べた巨額の放映権料は、Jリーグ全体の収入となります。放映権収入が増えることでJリーグはどのようにそれを使うべきなのか。そしてクラブはどのような経営を行っていくべきでしょうか。
【テバス】スタジアムでサッカーの試合を開催するだけでなく、それ以外でも経済効果を見出していく必要があります。また持続的な形を進めていかなければなりません。たとえばクラブは選手の育成などさまざまなことを行う必要があります。支出では税金対策もそうです。クラブが健全な財政を保てる状況にする。これは日本のリーグも同じだと思います。このようにクラブの競争力や持続性を保つことは、リーグの方で進めていかなければならないことです。特に経営面において、(クラブが)赤字や債務超過を続けないということを、Jリーグ側でマネジメント、コントロールするのは基本的なことだと思います。
海外、特にアジアに目を向ける
――ラ・リーガについていくつかお聞きします。会長がラ・リーガの財政的状況を大幅に改善したのはよく知られるところですが、そもそも着任時にどのような問題があったのでしょうか。
【テバス】2013年に会長に就任した時、スペイン自体が厳しい経済危機にありました。その中でいくつかのサッカークラブは多くの借金を抱え、税金の支払いが遅れたり、選手に支払いができなかったりしていました。一方、放映権収入は各クラブが(ラ・リーガに)交渉する仕組みになっていたため、利益はバルセロナやレアル・マドリードの2クラブに特に集中してしまっており、他のクラブの収益は少なく、うまく分配されていませんでした。
――その上で2つ質問があります。1つ目はラ・リーガにおいても八百長というキーワードが賑わせたこともありました。これについてどう対処したのかを教えてください。2つ目は、ラ・リーガの放映権収入の問題、クラブ経営の改善に対して、会長はどのような手を打ったのでしょうか?
【テバス】2つ目からお話ししましょう。社内に問題を抱えた多くのスペイン企業が行ったのと、同じことを私はしました。つまり、海外へと目を向けたのです。ラ・リーガの試合コンテンツは、海外へ輸出できる大きな力を持っています。スペイン国内に限らず、市場を世界にすることで改善すると考えたのです。しかし、アジアや他の地域の視聴者に楽しんでもらうためには、試合の時間帯を変更する必要がありました。スペインではなぜか、誰もそこに手をつけたがりませんでした。なぜなら、スペインには昔ながらのサッカーの試合時間があり、それを変えることはタブーだと考えられていたのです。しかし、これについても最終的には柔軟に対応し、土曜日13時キックオフ、16時キックオフ(日本時間21時、24時に相当)など時間を変えることで、アジアのファンも観戦しやすい時間にすることができました。試合の八百長については、もし私たちがそれを根絶できなければ、観客にラ・リーガの試合が質の高いものだと信じてもらえない、と説きました。
最終的にはスペイン政府に働きかけ、各クラブに対して、放送収入をラ・リーガに一度まとめて収めることを義務付ける法律を作ってもらいました。その収益を皆で分けることで、バルセロナ、レアル・マドリード以外のチームにも収入がきちんと入るようになり、全クラブの経営が改善できたのです。それによりグラウンドの改善や、各クラブの下部組織や、女子サッカーへ投資するお金もできたのです。