「天下り」とは、退職した公務員が関連する民間企業、団体に再就職することを指す俗語である。神が天界から地上に降りる「天降り」をもじったものだ。あまりにも広く用いられる言葉となり、民間企業の本社から子会社への転職の場合などにも使われたりする。
元来、官庁を「お上」と称した頃の国民意識が前提になっており、主権在民の現在、ことに官僚バッシングが常態化してきた昨今には比喩として必ずしも馴染まないのだが、そもそもが批判的な文脈の上のものなのだから今後も生き残るだろう。
ただ、この問題をきちんと議論するためには定義を正確に「公務員の再就職」として考えたい。なぜなら、政治家の唱える「天下り禁止」は実に乱暴な用法だからだ。公務員の再就職自体は禁じられていない。そのやり方にいくつか規制がかけられているのである。
大きくは、(1)官庁が再就職に関与すること、(2)本人が在職中に求職活動をすること、(3)再就職した者が離職後2年間の期間に元勤務した官庁に働きかけをすること、という3点だ。今回、文部科学省は(1)と(2)について再就職等監視委員会から違反の判定を受けている(※1)。
逆に言えば、この3点さえ守れば再就職は許されているわけだ。にもかかわらず、許されている範囲に対してまで論難が及ぶのは明らかに行き過ぎだろう。今回の事件は国会でも取り上げられ、野党のみならず与党の議員からも厳しい指摘が続いている。自民党の河野太郎衆議院議員は衆院予算委員会で文部科学省の行おうとしている内部調査を「泥棒に泥棒の見張りをさせても意味がない」と批判した。それはいいとしても、国立大学法人(元の国立大学)への現役職員の出向人事まで天下り呼ばわりし、やめるべきだと主張するのは全く筋が通らない。国立大学法人を含む独立行政法人への現役出向は合法と認められているからである。こんな調子だから、政治家やマスコミの論調に乗り、安倍首相は現行法で再就職仲介が許されている省庁OBに対し、省庁が職員の退職時期などの個人情報を提供することも禁止すると明言した。再就職に関する規制はいっそう厳しくなりそうだ。