働き方は「ブラック」将来設計も困難に

公務員は憲法に定める全体の奉仕者として扱われるために労働者を守る労働法の適用も受けず、特に20代、30代までは民間の大企業より相当に低い給与水準に甘んじる。勤務実態は「日本一のブラック企業」と揶揄される通り過酷で、3ケタも珍しくない残業時間に対し予算上の制約でその何分の1かの残業手当しか出ない。それが霞ヶ関の労働環境なのである。

そうした働き方の根本を改革しようとせず、国民の耳に心地良い「天下り禁止」のスローガンで再就職の部分だけを締め上げていくやり方にはどう考えても無理がある。就職時から退職後までの長い期間を視野に入れて公務員の処遇を抜本的に見直す時期に来ているのではないだろうか。そうでなければ公務員志望者の確保も難しくなろう。

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「天下り」のイメージ

「1億総活躍社会」を掲げる安倍内閣は、長時間労働是正や女性活躍など民間で働く人たちの「一人ひとりのニーズにあった、納得のいく働き方を実現するため」(政府広報より)の働き方改革を目指している。ならば、公務員についても同じような視点で臨んでほしい。今までより厳しくするべき部分もあるだろうし、改善してやるべき部分もあろう。その両方をバランス良く組み合わせて「霞ヶ関働き方改革」を議論してほしいものである。

わたしが現役だった時代の先輩たちの再就職は、どの省庁でも役所が差配していた。他省庁のように民間企業・企業団体への道をほとんど持たない文部省(当時)であっても、特殊法人をはじめ関係団体の数も多くて何の支障もなかった。ところが1990年代に入って行政改革により団体の統廃合が行われ、再就職先が急減する。そして2007年の再就職規制、09年の民主党政権による特殊法人からの元公務員排除方策と続く中、再就職の条件はどんどん厳しくなってきた。

現在では、OBの紹介でルートをつなぐのが一般的な形になっていると思われる。それをさらに今回の安倍首相発言のようにOBと役所の間まで分断するならば、全員が退職後に個人の力で再就職先を確保しなければならなくなる。有力OBと個人的関係がある者はなんとかしてもらえるかもしれないが、それ以外は自力でやるしかない。

内閣府に置かれた官民人材交流センターが13年秋から再就職支援を行っている(※2)といっても、局長級以上は対象外で、それ以外の者についても実際は民間経営の再就職支援会社を紹介してくれるだけだから、結局個人での就職活動になる。

わたし自身のケースでは、キャリア公務員の「早期退職慣行」があった頃なので54歳で退職し、役所の世話になることも断った。幸いすぐにさまざまな単発仕事のお誘いがあり日々忙しく過ごすことができたものの、現在の京都造形芸術大学に就職が決まるまでは個人営業する心細さを感じていたのは否めない。まして退職後なすべき仕事もなく新しい職を探さなければならないのなら、そんな段ではないだろう。

これでは退職後の将来に不安を感じざるを得ないではないか。年金は減額される一方で75歳まで働けと言わんばかりの状況になる社会にあって、職の保障がないまま放り出されるも同然なのだから。こんな仕打ちが待っている中、公務員が国民のために心を込めて粉骨砕身努力することができるだろうか。

もちろん、受け入れ先から見て能力の低い人間を雇用する必要などない。個々の力量に応じて、その力を発揮できる場が用意されればいいのである。そうした仕組みができて初めて、政治と行政、国民と官庁の間に信頼関係が確立されると信じる。

なお、わたし個人が考える公務員改革案は10年に出した『「官僚」がよくわかる本』(アスコム)に具体的に示している。ご興味ある方は、本稿と併せてこちらもご一読いただければ幸いである。

注1:再就職等監視委員会「文部科学省職員及び元職員による再就職等規制違反行為が疑われた事案に関する調査結果について」(平成29年1月20日) http://www5.cao.go.jp/kanshi/pdf/houdou/290120/tyosakekka.pdf
注2:内閣府官民人材交流センターの発表によると、同センターを通じて再就職したのは2015年度は32人、14年度は16人だった。

(宇佐見利明=撮影)
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