小中学校のトイレには「和式」が多く残っている。文部科学省の調査によると、全国の公立小中学校のトイレのうち、47%が和式だった。文科省は洋式を推奨しているが、トイレの洋式化率は地域差が大きい。なぜそんなことになっているのか。教育行政に詳しい寺脇研氏が解説する――。
教職員用のトイレが「男女共用」になっていた
25年ほど前のことではあるが、とても驚いた経験がある。文部省(当時)から出向して広島県教育長を務めていた時の話だ。とある県立高校を訪問したところ、教職員用のトイレが、なんと男女共用だったのである。四半世紀前とはいえ、常識外れの状況に呆れてしまい、即座に改善するよう予算を手配して男女を別にしてもらった。
その学校が、特に無神経だったわけではあるまい。その何十年か前に校舎を設計したときにそうなっていて、そのままになっていたのだろう。乏しい予算を生徒の使ういろいろな施設の整備に充て、教職員のためのものが後回しになっていた結果だと思う。生徒のトイレは、もちろん、ちゃんと男女別になっていた。
ただ、学校というところが、他の施設と比べてトイレに配慮が足りない傾向があったのは事実である。1990年代後半になるが、学校のトイレに関する問題提起がなされた際も、学校現場や教育行政機関の反応は鈍かった。
学校のトイレが持つ「5K」のイメージ
TOTOなどトイレ関連の企業をはじめとする関係者団体として1985年に発足した日本トイレ協会は、96年に「学校トイレ研究会」を設立した。その設立趣旨は、次のようなものである。
【住生活の向上により、住宅はもとより、デパートを始めとする商業施設や、オフィス、駅舎などのトイレも従来に比べて随分改善されてきました。一方、学校のトイレは、ソフト・ハード面でまだ十分に改善されておらず、加えて校舎の老朽化に伴い公立学校のトイレは子どもたちから5K(汚い・くさい・暗い・怖い・壊れている)と揶揄され、学校で排便を我慢する子どもたちの健康が危惧されていました。子どもたちにとって、学校のトイレは健康面・心理面から深刻な問題であり、また一日の大半を過ごす生活の場として、さらに地域開放や災害時の避難場所としても早急な改善が望まれています。学校のトイレ研究会は、学校トイレの実態をソフト・ハード面にわたって調査・研究することにより、児童・生徒が安心して使える清潔で快適なトイレを、具体的に提案・普及していくことを目的に、トイレ関連企業により1996年11月に発足いたしました。】
この5Kの話は、わたしも現場の教師たちから何度か耳にしたことがあり、問題意識はもっともなことだと思った。それとは別に、男子トイレの場合、個室に入ると「ウンコしていた」とからかわれるために、学校での排便を我慢する子が多いという心理的な理由による問題も深刻だと聞いていた。