新型コロナウイルス感染の不安が頭から離れない「強迫性障害」の患者が増えている。精神科医の遠山高史氏は、「細部へのこだわりは、今日的社会ではむしろ推奨されている。この病の治療はかなり困難だ」という――。

※本稿は、遠山高史『シン・サラリーマンの心療内科 心が折れた人はどう立ち直るか「コロナうつ」と闘う精神科医の現場報告』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

洗面所で水と液体石鹸で手洗い
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確認作業に明け暮れ、手洗いを執拗に繰り返す

新型コロナのおかげで休みになっていた学校が、この7月あたりからようやく始まった。しかし、17歳の娘は、学校のトイレを使えなかった。

便座にちょっとでも体の一部が触れただけで、身に着けているすべてが汚れたと思え、排泄を必死でこらえて帰宅する。玄関の取っ手をティッシュで覆いひねる。中に入ると、衣服を素早く脱ぎ捨てて、トイレに入り、風呂場に駆け込む。新しい下着を母親に持ってこさせる。

そのあと学校に着ていった制服をほかに触れないように部屋の隅に下げ、カバンの中の携帯や教材を、アルコールで消毒する。寝る時も学校に着ていった制服にほかの物が触れないように気遣いながらベッドに入るが、気づかず触れたのではないかとの思いが頭を巡り寝付かれない。知らずに悪しきものに触れたのではと、確認作業の挙げ句に手洗いを繰り返す。宿題をやる余裕はない。睡眠不足で朝起きられない。遅刻する。

彼女は少し神経質と思わせる娘であったが、これまではかなり成績が良かった。しかし、ここにきて格段に成績が低下しだしたのを教師はいぶかった。

こういった些細な接触(実際に触れたかどうかわからずとも)にも過剰な不安を抱き、確認と洗浄作業をし、接触を極力避けるような行動をとる病態は強迫性障害の患者に多く認められる。

コロナの蔓延以来、この傾向の人々は増大している様子である。触れずに生活を成り立たせるためには、非常に無駄でまわりくどい作業を要し、生活のほとんどはそれに支配され、他の生活内容は極端に貧しくなる。この病の治療は容易ではない。