2000年代に入って新しい形のトイレが増えていった

一方で、2000年代に入る頃から学校の閉鎖性が批判されるようになってくる。文部省も、「開かれた学校」をキーワードに「聖域」扱いを止める方向に転じた。00年には、「開かれた学校」づくりを一層推進していくため、保護者や地域住民等の意向を把握・反映し、その協力を得るために外部人材を起用した学校評議員制度がスタートする。さらに04年には「学校運営協議会」制度ができて、保護者や地域住民が学校に意見を述べることのできるコミュニティー・スクールとなることが奨励されていく。

その流れの中で、「学校トイレ研究会」の認知度は広がり、09年には全国首長連携交流会で意見を述べ、10年には文部科学省内で職員に向けての講演会を行うに至る。15年には同研究会と文部科学省とが共同の勉強会を開き、5Kの改善を目指すトイレ改修の動きが本格化していった。各地に新しい形のトイレができるようになり、それらの事例が、研究誌やホームページで公開されていく。

5Kとは真逆の、きれいなトイレ、臭くないトイレ、明るいトイレ、安心して使えるトイレ、壊れていないトイレが実現していった。男子トイレの個室を使うとからかわれる件では、小便器を置かず女子トイレと同じに全て個室にする試みも見られる。当然、洋式化も進展していく。文部科学省もこれを奨励し、自治体への補助も進めている。

洋式化率は地域差があまりにも大きい

19年に文部科学省の「学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議」が出した「これからの小・中学校施設の在り方について」は、「公立小中学校における洋式トイレ及び空調(冷房)設備の普及率は住宅のそれを大きく下回っており、生活文化からの乖離や近年の厳しい気象条件に対応した教育環境の確保などの観点からも各地域の実態を踏まえた整備が求められる」と指摘し、「洋式便器を採用するなど,生活様式や児童のニーズ等を踏まえた便所を計画することが重要である」としている。

にもかかわらず、全体を見ると、現時点におけるトイレの改修、洋式化ははかばかしい状態とは言い難い。住宅の洋式トイレ保有率が08年には既に約90%に達していたのに対し、公立小中学校のそれは、本年度の調査(「公立学校施設のトイレの状況について」2020年9月30日)においても57%に留まっているのである。また、地方によって普及率が大きく異なっているのも特徴だ。洋式化率が最も高い県は79.3%なのに対し、最も低い県は35.3%というバラツキぶりとなっている。

これは、自治体による意識の差が著しいことを意味している。5K問題解決に取り組む意欲の差とも言えよう。国からの補助はあくまでも補助であって、自治体の財政負担が伴うのは当然だ。限られた予算をどこに使うかで、対応が違ってくる。まだまだ、子どもたちにとってのトイレの重要性を認識しきれていない地域があるというわけだ。学力向上には熱心でも、子どもたちに欠かせない生活インフラであるトイレへの関心は薄い。全国一斉学力テストの全国順位には一喜一憂し対策を求めるくせに、トイレの改修には不熱心な首長が少なくない。

【図表】都道府県別「公立小中学校洋便器化率」