トイレ専門家からの問題提起を受け止めた

しかし、同研究会からの当時の文部省に対する働きかけは、まともに相手にされなかったようだ。学校を所管する初等中等教育局も、学校施設に関する政策を担当する文教施設部(現・文教施設企画・防災部)も、全く関心を示さなかったという。トイレに目が向かなかっただけでなく、民間企業からの提案に応じること自体が、当時の学校教育行政にはタブー視されていたのである。

途方に暮れた「学校トイレ研究会」に、助言した教育関係者がいた。生涯学習局(現・総合教育政策局)なら対応してくれるのではないか、と。で、同局の生涯学習振興課(現・政策課)の課長だったわたしのところに話が持ち込まれたというわけだ。生涯学習局は、国民の皆さんが生涯にわたって学習していくための便宜を図るのが使命であり、当然、それは学校などで学習する環境をも含む。また、民間企業の行う教育に関する活動も、学習する者のためになることなら積極的に受け入れる姿勢でいた。

喜んで話を伺い、トイレ専門家の立場からの問題提起を受け止めた。たしかに重要なことだと認識し、その結果、98年だったと思うが、同研究会が主催する神戸市でのシンポジウムに出席することになる。文部省として、初めて公的にこの問題を認知することとなった。この日は、神戸市の小学生たちからのトイレへの率直な要望もあり、問題の所在が明確化され、対処の必要性も認識されたと思う。

公立学校は「聖域」扱いされていた

しかし、直接に学校に働きかけることのできる部署は動かなかった。90年代末のこの時点でも、まだ公立学校は「聖域」視されていたのである。公立学校をどうするかは、あくまで設置者である自治体や国にしか決定できないと思われてきた。なにしろ、学校の敷地に入っていいのは保護者だけ、それも子どものことで用件があるときか、授業参観日や学校行事の日に限られていた。学校に注文をつけるなんて論外で、「子どもを人質に取られている」との意識で泣き寝入りするしかなかった。ましてや、児童・生徒の意見など、学校の運営に反映されようわけもない。

学校を直接所管しているわけではない生涯学習局としては、「学校トイレ研究会」を公認し、その活動が阻害されないように見守ることしかできなかったのは残念だ。それでも同研究会は、各自治体と粘り強い接触を続け、全国の自治体へのアンケートや、児童・生徒に対するアンケートなどで実態の把握と要望の集約に努めていく。年1回のペースで発行する研究誌では、各地での先進的な取り組みなどが紹介された。

教室
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