2人を結びつけたマグロだが、14年に太平洋クロマグロは絶滅危惧種に指定されている。松方さんは釣るだけでなく資源管理にも関心を寄せており、「一本釣りは獲れる数も限られ、水産資源に優しい漁法。ところがハイテクを駆使して一網打尽にしてしまう『巻き網漁』は資源の枯渇に通じる」と熱心に語っていた。特に産卵期のマグロを狙った巻き網漁は資源的にもダメージが大きいはずだが、効果的な規制が進んでいないのが現状。政府の漁獲規制では不十分だと長崎県・壱岐の一本釣り漁師も立ちあがっている。マグロ資源について木村社長に聞いてみた。
「現在、市場に出回る刺し身用マグロの多くは『養殖』と呼ばれるマグロを幼魚のうちに捕まえ、生け簀で2~3年育ててから出荷するものです。世界で初めて人工授精による完全養殖が可能になった近大マグロも話題ですが、いずれにせよ大きくするまでに膨大なエサが必要だし、自然界で産卵しないので資源増には繋がらない。
私が考え実行しているのはマグロの『備蓄』です。捕まえた時点で出荷できる200~300キログラムの立派なマグロを巨大な生け簀に放し、エサを与えて元気な状態を維持し、そのうえ産卵もさせて、漁獲資源を自然にお返ししながら、1年程度の期間で必要な時期に取り上げ出荷するという一番天然に近い方法です」
産卵を誘発する技術や備蓄している場所は企業の最高機密なので教えていただけなかったが、木村社長の考えに松方さんも「それは素晴らしいですね!」と賛同してくれたそうだ。
「スケジュールがあわずに、結局一緒にマグロ釣りをするという約束は果たせなかったな……」。木村社長は寂しそうにリールをなでた。