電気自動車リーフよりも前に、「部活動」で開発がスタート
しかし、課題もある。e-POWERを実現しようと思うと4つの壁があった。
1つ目は「電気自動車並みの静粛性実現の壁」。リーフですでに電気自動車の世界を知っている日産にとって、静粛性のスタンダードはすでに高い所にある。エンジンはうるさい。それをどうやって静かにするのか?
2つ目は「パワートレイン搭載の壁」だ。リーフにはエンジンはないし、通常のノートにはモーターがない。しかしe-POWERではエンジンもモーターも搭載する必要がある。これをどうやって解決するのか?
3つ目は「燃費 アクア越えの壁」。完璧なコンパクトカーを標榜する以上、このクラスのトップであるアクアを越えなくてはならない。
4つ目は「ワクワクする走り実現への壁」である。モーター駆動ならではのダイレクトでリニアな走行感覚をしっかり実現する必要があった。
e-POWERの正式な商品企画がスタートするよりはるか以前から、社内有志による先行開発がスタートしていた。そのスタートは2007年、リーフの発売より3年も前のことだ。これは社内で「部活動」と呼ばれる非公式な開発で、2014年にプロジェクトが正式にスタートした時には、e-POWERの基本的な枠組みはすでにこの部活動によってでき上がっていたという。それをベースにしながら、4つの壁への対策が施されていった。
ノートe-POWER、4つの壁をどう乗り越えたか
1つ目。エンジンを広範囲で回そうとすると様々な周波数の振動が出て、ボディをシェイクして騒音が大きくなる。e-POWERでは、エンジンの回転範囲を主に2000rpmから2500rpmに狭めて使うことで、周波数を一定の範囲にまとめた。こうすることで騒音対策の範囲も限定することができる。例えば吸音材で音を吸収するにしても、周波数が決まっていれば対処しやすい。さらに、モーターはエンジンと比べれば無振動に近い。実際にe-POWERに乗ってみると、例えば床板の振動は段違いに少なく、クラスが2つくらい違う静粛性が実現されている。
2つ目。パワートレインの搭載は相当に苦労したらしい。ノートはエンジンひとつを積むことを前提に設計されており、そこにエンジンとモーターと回生発電機を積むのだから大変な話だ。しかもモーターもエンジンもシャシーも有り物なので、デザインし直すことはできない。救いはHR12型エンジンが横幅のコンパクトな3気筒エンジンであったことだ。これにより、エンジンとモーターを横並びに配置し、モーターの上にインバーターを設置することができた。3気筒の有利さを軸に、愚直に細かい調整を積み重ね、全てをエンジンルームに収めた。
3つ目。燃費でアクアを越えるのも苦労したものと思われる。これもおそらく3気筒エンジンがポイントになっている。4気筒に比べて、フリクションの少ない3気筒エンジンは低燃費である反面振動面で不利だ。しかし発電専用にすれば、上述の様に回転域を限定して使えるため、振動のネガが出にくい。そしてそれは同時にエネルギー効率の最も良いところだけを使ってエンジンを稼働させられるということでもある。アクアの場合エンジンのより広い範囲を使わなくてはならない上に、その結果振動を抑制するために4気筒を選んでいる。e-POWERはそこに勝機を見出したわけだ。
最後に4つ目だ。モータードライブの価値の提案。これこそが日産が提案したかったノートe-POWERの核心的価値だろう。モーターがエンジンと最も違うのは、モーターは静止していてもトルクを発生でき、しかもその時に最大値を発生する。そのトルクはフルに発揮させたらタイヤが煙を出すレベル。もちろん市販車をそんな仕立てにするわけにはいかないので、電子制御でトルクをコントロールしている。その精度は1万分の1秒だと日産は豪語する。逆に言えば、立ち上がりからの過剰な能力をエンジニアが刈り込んでいることであり、それは発進加速を人為的に理想の形にデザインできることを意味している。当然、気持ちの良い加速が可能になる。そしてこれこそが、リーフの顧客からフィードバックされたモータードライブのメリットである。