変化の時期は投資の好機!

ただトランプ氏は、米国の労働者層を保護するという立場から、日本メーカーや中国メーカーに対しては敵対的なスタンスだ。TPPの批准といったタイミングで何らかの政治的圧力をかけてくる可能性は否定できない。

トランプ氏の頭の中は、ジャパンバッシングが激しかった80年代で止まっていると揶揄する識者もいるが、もしそうなのだとすると、当時と同様、現実的な解決策として浮上してくるのは、現地生産の強化ということになるだろう。

トヨタはかつてのジャパンバッシングの経験から、米国への直接投資を積極的に進めてきた。全販売台数のうち33%が北米市場向けとなっており、生産台数についても全体の23%が北米だ。一方、富士重工は全販売台数の66%が北米向けだが、生産は日本国内が中心で、生産台数に占める北米の割合は25%にすぎない。マツダも同様に北米向けの販売は多いが生産は国内中心だ。現地生産シフトをさらに進めるということになると、富士重工やマツダのように国内生産比率が高い企業は、生産ラインの一部を米国に移してしまう可能性がある。関連する業種で働いている人には、配置転換などのリスクが生じるかもしれない。

ただ、こうした動きも悪いことばかりではない。米国は先進国でほとんど唯一、人口が増加している国であり、シェールガス革命によってエネルギーをほぼ100%自給できる見通しである。米国は今後数十年間、世界経済の影響を大きく受けずに消費を拡大できるポテンシャルを持っていることになる。

日本企業に対する圧力が高まるのだとするなら、それは日本企業が米国進出を加速させるチャンスと捉えるべきである。例えば、米国に大規模投資を行っている東レのような企業は、長期にわたって安定的な経営を維持できるはずだ。

変化が起こるタイミングはリスクでもあるが、株式や為替など投資を始めるよい機会でもある。変化を冷静に見極めるしたたかさがあれば、トランプ政権の誕生も過度に怖がる必要はない。

経済評論家 加谷珪一

仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業。日経BP社、野村証券系投資ファンド運用会社を経て独立。個人投資家としても知られる。『お金持ちの教科書』『お金は「歴史」で儲けなさい』など著書多数。
 
(撮影=大沢尚芳 写真=AFLO)
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