実現するか1兆ドルの大投資

トランプ氏はたびたび為替についても言及している。ドル高が米国の労働者を苦しめていると発言しており、急激な円高が進むことを懸念する声が高まっている。

綱領では中国の為替操作について言及しており、人民元の対ドルレートについては政治的な交渉が行われる可能性が高なってきた。

もっとも実務レベルでは為替政策はそれほど大きな効果は得られないというのがコンセンサスになっており、ニクソン・ショック(1971年)やプラザ合意(85年)に代表されるような極端なドル安政策は採用されにくいだろう。だが、現実にドル安政策が行われなくても市場心理から円高が進む可能性もあるので注意が必要だ。

仮に円高が進んだ場合、どの程度の水準で収まるのかは、トランプ氏が提唱するインフラ投資の規模によって変わってくる。

トランプ氏は、従来の共和党の路線とは異なる大規模なインフラ投資を主張している(自著によればその規模は1兆ドル)。もし実現すれば、こうした大規模な公共事業は、世界恐慌時に民主党のルーズベルト大統領が行ったニューディール政策以来のものとなる。

ただ共和党内でも、近年のGDP(国内総生産)成長率の鈍化を受け、公共事業を強化すべきという声が出てきている。党綱領にも50年代にアイゼンハワー大統領が行った高速道路網建設の話が盛り込まれており、インフラ投資については現実味を帯びてきた。

米国が大規模なインフラ投資に乗り出した場合、労働者層の所得が増加することで消費にはプラスの影響となる。国債発行が増加するので金利は上昇する可能性が高く、長く続いた低金利から脱却するきっかけとなるかもしれない。金利の上昇はドル高要因となり、これが極端な円高ドル安を緩和することになるだろう。

財政出動の強化は通貨高による輸出減少を招き、その効果を半減させることも多いが、うまくバランスを保つことができれば、米国経済を再び成長軌道に乗せることも不可能ではない。このようなシナリオが描ければ日本企業にとってもそれほど悪い話ではない。