親戚で揉めたときの切り札

酒井さんのケースのように、どうしても家族や親戚の間のコミュニケーションが難しい場合には、専門家に依頼することも選択肢の一つになる。介護・福祉系法律事務所「おかげさま」代表の外岡潤氏は言う。

「相続手続きについては行政書士や司法書士、税理士、そして弁護士が専門家として挙げられます。日頃関係の薄かった遺族が遺産分割をする段階で権利を強く主張してくる、という例は頻繁に見られます。私の事務所にも疎遠な親戚との関係に悩んで相談に来られる方は多いですね」

酒井さんの場合、妹の息子が行政書士として働いていた。酒井さんは遺産相続とは直接関わりのない甥に、姪に連絡をとってほしいと依頼。結果として、甥は姪だけではなく、酒井さん、妹2人にも話を聞きにいき、それぞれの思いをまとめ上げる役割を担ってくれた。

外岡氏によれば、同じようなケースで弁護士に依頼した場合にかかる費用は最低で20万円から30万円。もし事前の相談なく、遺産分割協議でトラブルが起こって裁判沙汰にでもなれば、より高額な費用がかかる。それを考えれば、専門家に相談するという選択は現実的だろう。

専門家という意味では介護の専門家であるケアマネジャーも重要だ。福祉社会学を教える宇都宮大学准教授の中川敦氏は「弁護士もそうですが、その分野の専門家は『会話分析』の観点から見て有効な話し方を身につけている人が多い」と言う。

「ケアマネジャーは介護の知識はもちろんのこと、高齢者とのスムーズな会話術を日々の仕事のなかで習得しています。ベテランになるほど、数分間で相手の気持ちを引き出すこともできるようになる。私が接してきたなかでは、『地域包括支援センター』のケアマネジャーにはとても信頼できる人が多い」(中川氏)

コミュニケーションに不安があるなら、専門家に頼ることも必要だ。

弁護士・ホームヘルパー2級 外岡 潤

東京大学法学部卒業後、2007年弁護士登録。09年、日本初の「介護・福祉系」を標榜する法律事務所「おかげさま」を開設。紛争を話し合いで解決する技術「メディエーション」の啓発に注力。
 
宇都宮大学地域デザイン科学部准教授 中川 敦

早稲田大学大学院博士課程修了。島根県立大学専任講師などを経て、現職。専門は福祉社会学と会話分析。現在、遠距離介護での会話分析への取材協力者を中川敦研究室HPで募集中。
(澁谷高晴=撮影)
関連記事
認知症の親の「財産管理」のやり方は?
もし「親を捨てる」と、幸せになるか?
なぜ高齢者施設で“虐待”が増加しているのか?
認知症ドライバーの事故で「家族は崩壊する」
「実家の二次相続」で訪れる悲劇