給料アップでは満足は高まらない
次に、モチベーションに関する2つの有名な理論を紹介しましょう。
「人間は何を欲しているのか」という、モチベーション理論の基本的な枠組みを提示したのが、マズローの「欲求段階説」です。マズローによれば、人間の欲求には段階があり、下から順に「生理的欲求」(空腹なら食べたい)、「安全欲求」(安全に暮らしたい)、「社会欲求」(友達をつくりたい)、「自我欲求」(仲間に認められたい)、そして「自己実現欲求」(なりたい自分になりたい)があります。これらは、低次の欲求が満たされると、より高次の欲求を求めるようになります。ただし、生存欲求から自我欲求までは、欠乏していると欲しくなるものであるのに対して、自己実現欲求は理想の自分を一生追い求めていくようなものであり、企業の施策の中でいえば、モチベーションではなくキャリアの問題といえます。
もう1つは、ハーズバーグの「二要因理論」です。ハーズバーグは、やる気のある人は何もしなくてもやる気があり、ない人はいくら給料を上げたり研修を行ったりしてもやる気は上がらないのではないか、という問題意識を持っていました。「そもそもエンジンのない自動車にいくら燃料を入れても走るわけがない。問題はいかにエンジンを備えるかだ」と述べています。
ハーズバーグは、実際に企業で働いている人々に「会社生活の中で、最もやる気の出た満足した出来事や経験」と「会社生活の中で、最悪でやる気も失せた不満足だった出来事や経験」という両極端な質問をする調査を行いました。もし、給料が多かったときが最高で、少なかったときが最悪だったのであれば、賃金こそが実際に働く人のやる気を最も左右する要因と特定できたでしょう。しかし、実際の調査結果は、満足をもたらす要因と不満足をもたらす要因は異なったものでした。満足をもたらす要因は、「仕事を達成することやそれが会社に承認されること」「仕事の内容が良かった」など。一方、不満足をもたらす要因は、「職場環境が悪い」「上司や同僚との人間関係が悪い」「賃金が低い」などでした。
二要因理論が示唆するのは「給料や職場環境は不満足を低減するが、満足をもたらすわけではない。満足を高め、やる気を出させたければ、従業員が達成感や成長実感を得られるように仕事そのものを工夫しなさい」ということです。モチベーションを高めるために最も大切なのは、仕事そのものだということです。良い仕事こそが人を動かすエンジンになるのです。