チャットアプリは将来、インターネットの入り口になる
【田原】なるほど。気になるのは、これらの4カ国でLINEはすでにシェアがトップクラスだということ。これ以上伸びしろがないと思うのですが、どうやって成長させるのですか。
【出澤】方向は2つあります。1つは、ユーザー単価を高めてマネタイズの効率を上げていく方向。もう1つは、次の波を積極的に狙う方向です。後者に関しては、チャットアプリがインターネットの入口になる時代がいずれやってきます。その次の波を先取りしてやっていこうかなと。
【田原】どういうことですか。
【出澤】アメリカでは、パソコンもタブレットもすべて含めたインターネットの利用時間のうち、約50%がスマートフォンのアプリになりました。日本も状況は変わりません。問題は、何が入り口になるのかということ。インターネットでWebサービスを使っていたころは、検索サイトがその役目を果たしていました。しかし、アプリはWebサービスと違って検索のクローラーが回りません。アプリの中に情報が閉じていて、グーグルが中の情報を探しにいけないのです。となれば、アプリの中でもっとも使われているLINEのようなチャットアプリが、情報を探すハブになっていく可能性が高い。われわれは、それを“スマートポータル”と呼んでいます。
【田原】それが次の波?
【出澤】はい。あと、チャットアプリのコミュニケーションの仕方は、ビジネスに転用が効きます。たとえばチャットで航空券の予約をしたり、お買い物をするということもできるはずです。ユーザーがインターネットを使う時間の変化と、チャットアプリ転用の可能性。この両面にいま世界が注目していて、グーグルやアップルもメッセンジャーアプリに力を入れ始めています。われわれはチャットアプリのノウハウで先行しているので、この波をうまく生かしていきたいですね。
【田原】チャットは転用が効くというところがわからない。もう少し説明してもらえます?
【出澤】パソコンのサイトに検索ワードを入れるのは、人間の本能からすると不自然な動きですよね。それより「いいお店ない?」とか「○○が欲しいんだけど」とテキストで書いて、AIが答えて会話していくほうがずっと自然です。そう考えると、将来は会話型のコミュニケーションでインターネットとつながることがあたりまえになるのではないでしょうか。ポストスマートフォンの時代は、本当に口でしゃべるだけでつながる世界になると思います。
【田原】スマートフォンがなくなった後のことも、もう考えているのですか。おもしろい。ポストスマートフォンって、どんなものになるんだろう。
【出澤】ハンドセットかもしれないし、イヤホン型とか時計型かもしれません。あるいは家や会社では家具や機器に話しかけるのかも。形としてはまだわかりませんが、いろんな可能性がありますよね。
【田原】わかりました。今日はどうもありがとうございました。
出澤さんから田原さんへの質問
Q. 優れた経営者の条件は何ですか?
【田原】経営者に求められる資質の中でも、僕が大事だと思うのは、チャレンジ精神です。孫正義を見てください。彼は海のものとも山のものともわからないアリババに早くから目をつけて出資しました。今年ARMを買収したことに対しても、まわりは首をかしげている。それでも、自分の信じたものにすべてつぎ込む姿勢は、まさに博打打ちです。
ホンダもソニーも松下も、創業者たちはみな勝負師でした。ところが高度成長を経て、後継社長たちの多くは守りに入ってしまった。東芝の社長三代が粉飾したのも、守りに入っていたからです。一方、同業でも日立のように攻め続けて好調な会社もあります。経営者が勝負に行くか行かないか。それが企業の行く末を左右するのです。
田原総一朗の遺言:博打を打てる人になれ!
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、WHILL CEO・杉江理氏インタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、11月28日発売の『PRESIDENT12.19号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。