もしも上司が「ヒラリー」だったら

第1回討論会でのドナルド・トランプ氏とヒラリー・クリントン氏(写真=AP/アフロ)

一方、ヒラリー氏は大学・弁護士時代から女性の自立と選択肢の拡大に取り組んできた、まさに女性活躍推進を絵に描いたような「ロールモデル」的存在である。

大統領夫人時代は、積極的に政治に関与し、幾多の挫折も味わい、どん底に立たされたが、決して挫けることなく、初志を貫徹してきた。彼女は自伝で「女性が犠牲になれば、家庭や地域社会、畢竟、国家の安定が蝕まれ、世界全体の民主主義と繁栄も危険にさらされる」と述べるなど、筋金入りの女性の権利の擁護者だ。

しかも頭脳明晰でどんな論争を挑まれても弁舌はさわやかで、相手の論理の欠点を指摘するなど、男性もとてもかなわないという印象を与える。

しかし、そんなヒラリー氏も今回の大統領選では女性票が思ったほど伸びず、とくに1980年代以降生まれのミレニアム・ウーマンと呼ばれる若い女性の支持率は低かったという。

各種の報道ではその理由として以下の点を挙げている。
・エスタブリッシュメントと見なされている
・旧態依然以前の女性権利擁護のフェミニストとして若い女性たちが反発
・特権白人女性たちの味方と見なされている

確かにヒラリー氏はファーストレディ、上院議員、国務長官を歴任したエスタブリッシュメントであり、誰もが羨む成功者に違いない。若い女性にとっては自分たちの苦しみや不満から遠い「雲の上の人」「昔の人」という印象を与えた可能性はある。

じつは一般企業にもこれに似たようなイメージを持たれている女性上司は少なくない。

とくに40代後半以降の女性幹部職世代は、今ほど仕事と家庭の両立支援が充実していない時代に男社会の中で懸命に働いてキャリアを築いてきた。

ヒラリー氏が自伝で「奮闘あるのみ!」「敢えてチャレンジ」という言葉を何度も使っているが、それと似たような生き方をしてきた世代だ。また、多くの企業ではそんな女性幹部を働く女性のロールモデルとして前面に登場させている。