「○○費は収入の○割」「老後資金は1億円」は本当か?

ときに私と考え方や価値観がまったく異なる相談者がいらっしゃることもあります。

そうしたときに、相談を受ける立場の私が、相手の価値観を受け止めなければ、適切なコンサルティングはできないでしょう。例えば、将来の医療費の負担が不安で医療保険に加入したいと言っている人に、「医療保険に入るのは損だから、やめておいた方がいい」というのが、適切なコンサルティングといえるでしょうか(補足しておくと、不安な人に「はい、保険に入りましょう」というのが適当だと思っているわけでもありません。加入するかどうかを一緒に考えて、本人が判断するような情報提供が大事ではないかと考えています)。

また、「あなたは収入の2割を食費とし、2割を貯蓄とするのが適切です」というのが本当にその人の生活に適したアドバイスでしょうか。これではFPの考え方を伝えているにすぎません。教える側(FP)と教わる側(相談者)の会話です。こうした一見「わかりやすい」アドバイスが広がりやすい昨今ですが、個人的に非常に違和感を覚えています。

これはメディアの側の事情も後押しさせているようです。

「医療保険に入るな」
「○○費は収入の○割でいい」
「老後資金は1億円必要」
「老後に必要な貯蓄率は○%」

と言った方が、読者にはなんといってもわかりやすいです。また、メディア側は伝えやすいです。いろいろ説明しながらも最終的には「(判断は)個人の価値観による」では、まったくもってわかりづらいのです。

結局、読者がどうしたらいいのかわかりません。明確にバシッと言い切れば具体的な行動がわかりますし、かつ専門家が言っていることですから、メディア側はある意味発言の責任を負う必要もないのかもしれません。

確かに、一部の人にはあてはまりますから、一概に間違いだとは言えません。しかし、これにあてはまらない人もかなり多くいるはずで、そうした方々はかえって不安になりかねません。実際に、

「医療保険に自分は入っていますが、やめた方がいいのでしょうか?」
「老後資金はいくらあればいいのでしょうか?」
「保険には入るなという本を読みました。私の選択は間違っていたのでしょうか?」

といった相談がくることは珍しくなくなりました。専門家といわれる人たちが、かえって生活者を惑わせている面があるようです。

私自身の過去の経験からも、自戒の念を込めて言えば、「答えは、相談者のココロの中」です。