「江夏はピンチに強い投手」というイメージ

おそらくその「事実」より、「奇跡の投球」だけがクローズアップされた「印象」の方が、人々の記憶に深く刻まれているのではないだろうか。極端に言えば、江夏の投球は、「みずから招いたピンチをしのいだだけ」のことだった。それが事実だ。しかし、その事実は、いつの間にか、「チームが招いた絶体絶命のピンチを救った」最高の投球という印象へと変わっていった。

それをきっかけに、「江夏はピンチに絶対的に強い投手」という印象がひとり歩きする。実際以上の印象を相手に与えることは勝負の世界では大事なことだ。ピンチで、江夏がマウンドに向かうと、相手チームは、押さえ込まれるかもしれないという嫌な予感がつきまとい始める。一方、味方は、江夏だからこのピンチも何とかしてくれるだろうと安心して守ることができるようになる。

その「印象」が、やがて実際の結果にも大きな影響を与えていくことになるのだ。そのようにプロにとって大事なのは、具体的な数字より、実際よりすごいと思わせる印象を、相手に植えつけることができるか否かなのだ。

※本記事は『人生に、引退なし』(村田兆治著)の内容に加筆修正したものです。

関連記事
【古葉竹識監督】「みんなで『はずせ!』と叫んだ」知将の全員野球
【西本幸雄監督】日本一になれなかった「悲運」の指揮官
プロ野球・日本ハム「大谷獲得」の舞台裏
なぜ日本一監督は捕手出身が多いのか?
なぜ「カープ女子」が増えているのか