9回裏一死満塁。3人を出塁させたのは誰か?

今をさかのぼること37年前。広島カープがセリーグを制覇し、駒を進めた1979年の日本シリーズ。広島対近鉄の日本シリーズ第7戦でのこと。広島も近鉄も3勝同士、これで優勝が決まるという文字どおりの最終戦になっていた。

スコアは4対3のわずか1点差。広島のリードで9回裏、近鉄が最後の攻撃を迎えていた。反撃を開始した近鉄は一死満塁。一打出れば逆転のサヨナラ優勝という絶好のチャンス。追い上げてきた近鉄に、試合の流れは傾きつつあった。

『人生に、引退なし』(村田兆治著・プレジデント社刊)

広島の古葉竹識監督は、近鉄への流れを絶つべく、押さえのエースの江夏豊投手を投入していた。迎える打者は、いぶし銀の打撃を身上とする石渡茂選手。優勝の行方を左右する大勝負だ。

江夏がゆっくりとしたモーションから打者、石渡へ運命の一球を投じた。

石渡、スクイズ!

そう見えた瞬間、江夏は投げようとしていたカーブの握りで、そのままウエストし、大きくはずれる球を投げた。後に語り草になる、常識ではありえない奇跡の投球だった。ボールは、石渡のバットをかいくぐった。何度となくテレビでも放映されているから、プロ野球ファンならずともよくご存じの場面だろう。

だが、問題はここだ。

実は、今の記述には決定的な誤りがある。江夏は、9回裏のピンチに登場してきたような印象があるが、彼は7回裏からマウンドに立っているのだ。つまり、彼は絶対的なピンチを救援したのではなく、みずからのピッチングでノーアウト満塁というピンチを招いていた。