健康被害が発生する「おそれがある」
では、土壌汚染を巡る公害(環境)紛争とは、一体どのようなものか。言うまでもなく、土壌汚染が原因となって、汚染した者と汚染によって被害を受けた者の間での争いである。
かつては、例えば化学工場の操業中、施設の不具合によって製造過程で使用する化学物質が流出し、周辺の土壌や地下水、河川を汚してしまった等々、現に行われている事業活動に伴って生じた土壌汚染が原因となることが多く、したがって汚染源とその範囲や影響が比較的把握しやすかった。
別の言い方をすれば、「これだけ流れてしまったので、これくらいの範囲まで浸透している可能性が高く、この程度の対策を行えば被害を無くすか、最小限に抑えることができる」、すなわち因果関係と解決策を導き出すことが比較的容易だった。
しかし、ここ十数年の土壌汚染紛争はそれとは質を異にする。現在ではなく、過去の事業活動に伴って生じた汚染が、事業活動が終了してから相当程度(多くの場合、数十年)たってから出てきたことに起因するものがほとんどとなっている(産業廃棄物の不法投棄による紛争のような、比較的因果関係がわかりやすいものもあるが)。
したがって、汚染物質は具体的に何で、範囲や濃度も含めてどの程度汚染されているのかを把握するのは容易ではなく、対策の要否や有無、その内容を確定させるのは極めて困難である。
加えて、これらを把握しきれないということは、対策が完了して数年を経た後も汚染物質の漏出といった事態もありうるということであり、その場合の対策まで予め想定しておく必要がある。
しかし、何がどう出てくるかは予想の域を出ず、予想外・想定外の事態に至る可能性も否定できない。また、工場跡地等への別施設(マンションetc)の建設等に伴って発見されるといったことが多く、そうしたものについては健康被害が現に発生しているというより、「発生するかもしれない」という蓋然性が高いものがほとんどである。
したがって、具体的な被害についても、その「おそれがある」としか言いようがない(そうした紛争についても、公調委では「おそれ」事件としてこれまでに受け付け、解決に導いてきている)。
実際、小池知事も8月31日の記者会見で次のように発言している。
「地下水のモニタリング結果をご紹介しておきたいと思います。例えば、5街区の41地点のこれまでの7回のモニタリングの結果をみてみますと、いずれも環境基準値以下となっております」
「しかし、検出値というのは、単純な経時変化というわけではございません。時間がたてば不検出になるという話ではないということであります」
「ですから、少なくとも、2年間のモニタリング結果を見届けるというのは、これは安全性の確認、そしてその説得力ということにおいては譲ることはできないと、このように考えているわけでございます」
次回、こうした豊洲問題とも通底する公害紛争の具体的な事例をいくつかみていこうと思う。(つづく)