原則非公開だった「大物競り場」に密着
2018年10月、世界最大の水産マーケットである築地市場が83年の歴史に幕を閉じ、豊洲へと移転した。築地市場にはマグロの仲卸だけで190店舗以上が存在していた。そのうち31店舗を持ち、トップクラスの売り上げを誇る“マグロ仲卸人の雄”が山口幸隆だ。
今年の初セリで1番マグロ(3645万円)を買い付けた山口は自他と共に認める“マグロに魅せられた男”。目利き、仕入れは勿論、実際に包丁を入れてマグロの脂の乗り具合や旨味、甘味を見極め、顧客の好みやその店のシャリの特徴に応じて届け先を決めていく。
名だたる高級すし店の職人からの信頼も厚く、今や国内だけでなくシンガポールやハワイの高級店がそのマグロを心待ちにするほどだ。
マグロの美味しさは餌や漁の仕方、熟成、温度で変わり、春のマグロは香り高く冬は脂を楽しむといった具合に日本の四季によってもその味わい方が異なるという。
これまで誰よりも多くのマグロに触れ、食べて経験値を高めて来た自負はあるが、それでもマグロはさばいてみるまで味がわからないと山口は言う。
「裏切られるから、マグロは面白い」
10月14日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」(毎日放送)では、これまでほとんど撮影が許されなかった築地の「大物競り場」も取材。山口の目利きとしての神髄や、半生をかけて築地ブランドを築いてきた仲卸人としての仕事論を聞いた。
「いいマグロは全部買う。人にはやらない」
移転までひと月を切った築地。魚河岸の華は、やはり生のマグロだ。山口の会社には、寿司店だけでも100軒近い店から毎日注文が入る。
山口「基本的にはいいマグロは全部買う。俺は。余っても買う。人にはやらない」
この日は、人気ブランドの「大間マグロ」を始め、近海で取れたものや海外から空輸されたものを含む、100本以上の生マグロが競りに並んだ。品定めは、目利きの見せ場だ。山口は競りが始まるギリギリまでマグロの腹に懐中電灯を当て、尾の切り口から身の状態を読んでいく。いいマグロは人の体温で脂がとろけ、手に絡みついてくると言う。