ヨシタケシンスケは、40歳でデビューした遅咲きの絵本作家だ。半年間のサラリーマン生活では、ストレスがたまるたびに、小さな紙に絵を描き続けた。30代はイラストレーターとして、“鳴かず飛ばず”の日々。転機となったベストセラー『りんごかもしれない』を生み出したきっかけは、自らの子育て経験だった。大人気絵本作家は、どうやって物語を作っているのだろうか――。
(写真提供=毎日放送)

“鳴かず飛ばず”の30代

今、絵本好きの間で一大ブームを巻き起こしている絵本作家、ヨシタケシンスケは、40歳でデビューした遅咲きだ。ヨシタケの絵本は、妄想を交えたちょっぴりおかしな発想と癒やされる絵で、大人でも「クセになる」と話題になっている。出す本全てが記録的な売り上げを達成し、今年の全国12万人の小学生が選ぶ「“こどもの本”総選挙」では、4冊が10位以内にランクインした。

イラストレーターとして活動をしていた30代は鳴かず飛ばず。自らの子育て経験を通じて40歳の時に初めて出した絵本『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)がいきなりベストセラーになった。

「絵の奥行きや叙情などでは勝負できない分、新しいものの見方の提案とか、人が言いにくいことを言ってみるとか、付加価値を付けないといけないと思ったんです」とヨシタケは語る。

10月21日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、8カ月間にわたって密着取材を敢行。ヨシタケの創作の根っこにあるというネガティブな感情の原点や、子育ての中で湧くインスピレーションを絵本にするまでの舞台裏を紹介した。

身長181センチ、丸刈りにコワモテの素顔

2018年3月、取材は自宅の仕事場からはじまった。机に向かうヨシタケを撮影していると、当人がなにやら不安そうな顔をしながら、おもむろにカメラマンに尋ね出した。

ヨシタケ「テ、テ、テープですよね」

どうやら、取材カメラのテープが切れるタイミングが気になって仕方ないらしい。

ヨシタケ「『ちょうどいい感じのことしゃべってるな、オレ』ってなった瞬間に、『テープ切れるかも』って思うんですよね。常に最悪のことしか思い浮かばない。これはもう心の癖なので……(笑)」

昔から恥ずかしがり屋で人見知り、おまけにかなりの心配性だ。誰かと待ち合わせをする時には、約束の時間よりずっと早く到着しないと落ち着かない。

40歳で絵本作家としてデビューして6年。発表した12冊はどれも高く評価され、今や「大ヒットメーカー」「児童書業界をけん引する存在」と言われる大人気作家となったヨシタケだが、行く先々ではやたらに腰が低く、常に181cmの長身は猫背気味だ。