新作は「にくむ本」妄想から絵本が生み出される瞬間
2018年7月、ヨシタケは少々厄介な企画を抱えて出版社に向かった。ラフスケッチには、「にくむ本」と書かれていた。生きていれば誰だって大嫌いだと感じる相手に出会うことがある。そんな人を嫌う気持ち、憎む気持ちを肯定する本を作りたい。しかし、それを絵本にするとなると……?
「今回は大人向けの絵物語にしなければ成り立たない」と、当初のヨシタケは思い描いていた。だが、編集者からは真逆の意見が出る。
《困難なテーマだからこそ子供向けの絵本で表現してみませんか》
あらためて、表現の方法を模索し始めたヨシタケ。答えが見つけられずに堂々巡りをするなか、一家はキャンピングカーを借りて、久々の休日を過ごすことになった。仕事から解放された家族とのひととき。リラックスモードで小さなスケッチブックに筆を走らせていると……天啓はこんな時に降ってくるものだ。
「あ……、個人を憎むのではなく、その個人を動かしている何かを憎めばいいんじゃない? 憎しみの矛先をちょっと変えればいいんだ。そうすれば絵本にしても大丈夫かもしれない」