利用範囲の拡大は「別表への記載」で済む
公的マイナンバーは、税、社会保障、災害の3分野に限定して利用するとしています。しかし、NHKの籾井勝人会長は2015年10月の記者会見で、マイナンバーを受信料の徴収に活用することを「積極的に検討したい」と話しています。放送法はNHKの受信料制度について、テレビなどNHKの放送を視聴できる機器をもつ世帯は受信契約を結ばなければならないと定めていますが、受信契約のない世帯には支払いを求める根拠がなく、「支払い義務化」がたびたび議論されています。そもそも受信料は税ではありません。
このように油断すると安易な利活用が提案され、利用範囲の拡大が進みかねません。行政の効率化を進めることは重要ですが、安易な拡大はつつしむべきです。特に戸籍は世代をこえて使われるため非常に危険です。年金、介護、医療保険といった日本の社会保障制度は崩壊の危機に瀕しています。国民の生存権を確保するためには、制度は維持されなければなりません。具体的な利用の場面を想定したうえで、利用範囲の拡大は限定的に実施していくべきです。
マイナンバーの利用範囲は番号法の「別表」で規定されています。最初の立法時には国会も厳格に審議し、メディアも熱心に報道しますが、今後の「別表」の改正は国会の審議がおざなりになり、メディアも見過ごす恐れがあります。
「別表」の一行一行には非常に重い意味があります。具体的に何にどう使われるのか、追加されるごとに一つ一つ精査していく必要があるでしょう。
1962年生まれ。中央大学大学院法学研究科修了、修士(法学)、情報セキュリティ大学院大学修了、博士(情報学)。政府の「パーソナルデータに関する検討会」委員などを歴任。共著に『ニッポンの個人情報』(翔泳社)などがある。